X線トモシンセシスにおける高画質化・高機能化技術の紹介Technologies to Enhance Image Quality and Performance of the Tomosynthesis in X-ray Fluoroscopy System

  • 山川 恵介Keisuke Yamakawa
  • 高橋 勲Isao Takahashi
  • 高橋 啓子Keiko Takahashi
  • 中村 正Tadashi Nakamura

富士フイルムヘルスケア株式会社

近年、乳房や整形外科領域等の診断目的に応じて、3次元画像を取得可能なX線デジタルトモシンセシス装置が用いられている。われわれは2016年にX線透視診断装置EXAVISTA※1の特長機能の一つとして、追加のビューアを用いずワンコンソールによるトモシンセシス撮影を搭載した。
本稿では、2020年にさらなる改良を加え、これまでの透視撮影機能にとどまらず、一般X線撮影やトモシンセシス撮影を実現可能な多用途システムとして開発したCUREVISTA※2 Openを紹介する。本装置に搭載された特長的な機能であるTomoVIEW/IR搭載トモシンセシスアプリにて活用されている、①金属アーチファクトを低減する処理”HiMAR※3(High Quality Metal Artifact Reduction)”、②異なる組織間のコントラストをX線透視撮影装置の撮影画像相当に変換する処理”Gmode”、③ノイズを低減する処理”RealtimeIR(Iterative Reconstruction)”の3つの高画質化・高機能化技術を実際の臨床画像例とともに解説する。

In recent years, X-ray digital tomosynthesis systems capable of acquiring three-dimensional images have been used for diagnostic purposes in breast, orthopedic, and other areas. We launched the tomosynthesis as one of the feature functions of X-ray fluoroscopy systems EXAVISTA※1 in 2016, which features a single console without an additional viewer.
In this paper, we introduce CUREVISTA※2 Open, which was developed in 2020 with further improvements as a versatile system capable of not only fluoroscopy but also general radiography and tomosynthesis imaging. CUREVISTA Open is equipped with TomoVIEW/IR tomosynthesis application, which consists of three technologies: HiMAR※3 (High Quality Metal Artifact Reduction), a process that reduces metal artifacts; Gmode, a process that converts organizational contrasts to that of radiography images in fluoroscopy; and RealtimeIR (Iterative Reconstruction), a process that reduces noise. These technologies to enhance image quality and performance will be explained with examples of actual clinical images.

Key Word

  • Fluoroscopy
  • Tomosynthesis
  • Metal Artifact Reduction (HiMAR)
  • Contrast Conversion (Gmode)
  • Noise Reduction with Iterative Reconstruction (RealtimeIR)

目次

1 はじめに

近年、乳房や整形外科領域等の診断目的に応じて、3次元画像を取得可能なX線デジタルトモシンセシス(以下、トモ)装置が用いられている。本稿では、X線透視診断装置CUREVISTA Open(図1)の特長機能として、被検者を一部の投影角度から撮影することで、X線投影画像から被検者のX線吸収係数を示す断層像(以下、トモ画像)を得られる撮影方式をトモ撮影と称し、紹介する。トモ撮影は1980年台後半から研究が行われ、近年は大視野フラットパネル検出器による広視野の確保およびCTで用いられるフィルタ補正逆投影法(Filtered Back Projection method:以下、FBP法)の応用により、各種診断で臨床応用されている1)

トモ撮影の臨床的な長所として、通常の透視撮影や一般X線撮影と同じ撮影方向から奥行方向を表す3次元の冠状断像(図2)を取得することで、複数の組織の重なりを分離できる点が挙げられる。一方で、トモ撮影の課題として、20度や40度といった一部の投影角度で収集する撮影系(図2)であるため、角度の不足が原因で、金属等の高い吸収係数をもつ組織からアーチファクトが生じ、画質低下(図3)や組織間のコントラスト変化が起きることが知られている2)

本稿では、CUREVISTA Open搭載の特長的な機能である金属アーチファクトを低減する処理”HiMAR(High Quality Metal Artifact Reduction)”、コントラストをX線透視撮影装置の撮影画像相当に変換する”Gmode”、投影データを反復させながらトモ画像のノイズを低減する”RealtimeIR(Iterative Reconstruction)”の3つの技術について、実際の臨床画像を用いて解説する。

図1 CUREVISTA Openの装置外観
図1 CUREVISTA Openの装置外観
図2 トモシンセシス装置の撮影系3)
図2 トモシンセシス装置の撮影系3)
図3 トモシンセシス画像における金属アーチファクト例(金属周辺の黒色領域)
図3 トモシンセシス画像における金属アーチファクト例(金属周辺の黒色領域)

2 本論

2.1 金属アーチファクト低減処理 ”HiMAR”

トモ撮影では、金属と周りの組織との投影画像の値の差がFBP法により強調されることで原理的に金属アーチファクトを生じることがわかっており、人工関節と骨の境界におけるゆるみ(ルースニング)の有無やインプラントの境界部分の骨梁が不明瞭となり、十分な観察ができないケースが報告されている4)。われわれはアーチファクトの原因である金属と周りの組織との差を小さくする減衰処理(図4)を加えることで、金属アーチファクトを低減する技術3)を開発した。はじめに投影画像から金属部分を抽出して金属投影画像を作成し、一方で抽出した金属情報を使用して、金属部分を減衰させた金属減衰投影画像を作成する。作成したそれぞれの投影画像を基に、再構成した金属画像の情報から金属を復元することで金属アーチファクトを低減したトモ画像を作り出す。これら一連の処理は、撮影した後から検査終了前までに画像処理ツールを用いて実施可能である。

本技術により、ルースニングや金属の周りの骨梁の観察に影響を与える金属アーチファクトを低減でき、視認性の向上につながることが期待できる。なお2.3で後述するノイズ低減技術”RealtimeIR”を併用することで、金属減衰画像と金属画像のそれぞれの再構成処理の際、投影画像のノイズを低減し、高画質なトモ画像を取得可能となる。

本技術の検証として、スポンジに水を吸収させた状態で、チタン製のステムを配置したファントムを用いて画質を評価した。図5はステムの一部に関して、HiMARなし、ありを比較した結果を示す。HiMARありはHiMARなしと比べて、金属アーチファクトの影響でステムとスポンジの境界で値が低下した領域(黒色)が周りの領域(グレー色)と同等の値まで改善したことがわかる。また図5のプロファイル上の画素の値を比べた結果、HiMARありでは、金属と周りのスポンジとの境界が低い値となり、HiMARなしの結果を改善できたことがわかる(図6)。図7は人工膝関節置換術の臨床画像例であり、HiMARありはHiMARなしと比べて、人工膝関節周辺の金属アーチファクトが低減できたことがわかる。

図4 金属アーチファクト低減処理のフロー
図4 金属アーチファクト低減処理のフロー
図5 HiMARなし、ありのトモ画像の比較3)
図5 HiMARなし、ありのトモ画像の比較3)
図6 HiMARなし、ありのトモ画像(図5)の値の比較3)
図6 HiMARなし、ありのトモ画像(図5)の値の比較3)
図7 HiMARなし、ありのトモ画像の比較
図7 HiMARなし、ありのトモ画像の比較

2.2 コントラスト変換処理 ”Gmode”

トモ撮影では、2.1に記載した投影画像の値の差を強調する効果により、各組織の画素の値および異なる組織の間でコントラストが変化する特性があり、X線透視撮影装置による撮影で得られるコントラストとは必ずしも一致しない。そこでわれわれは、X線透視撮影装置の撮影画像相当の画像を取得し、診断に違和感のない画像を提供するために、複数の異なる周波数帯の強調処理から作り出した複数のトモ画像を混合する技術を開発した。

通常、FBP法で角度が不足した投影画像を用いると、再構成の条件を満たさずコントラストの変化が生じる。そこで、高域の周波数帯を強調した通常のFBP法による画像に加えて、X線透視撮影装置の撮影画像と近い性質をもつ低域の周波数帯を強調した画像を重み付けて混合することで、組織の構造を維持しつつ、X線透視撮影装置の撮影画像相当のトモ画像を取得可能とした。

図8は臨床画像例であり、通常モード(Bmode)では空気、被検者内の組織、金属の全てのコントラスト差が小さいことがわかる。一方で、コントラスト変換処理で得られたGmodeでは空気(黒色)から軟部組織(グレー色)、骨や金属(白色)の順に画素が明るくなっており、X線透視撮影装置の撮影画像と比べて違和感のないグレースケールの画像が取得できたことがわかる。これにより、トモ画像独自の階調ではなく、X線透視撮影装置の撮影画像のように白から黒までの階調を使った評価による診断が期待できる。

図8 通常モード(Bmode)、コントラスト変換モード(Gmode)のトモ画像の比較
図8 通常モード(Bmode)、コントラスト変換モード(Gmode)のトモ画像の比較

2.3 RealtimeIR

トモ撮影では被ばく線量を抑えるため、胸部や腰部等の厚みが異なる撮影部位によっては線量不足が原因でノイズが増える課題がある。そこでわれわれは、GPU(Graphics Processing Unit)によるリアルタイム処理をベースとして、反復しながら投影角度ごとに取得した投影画像のノイズを低減する逐次近似再構成技術を開発した。逐次近似再構成はベイズの定理に基づいており、収集した投影画像と、逐次更新中の投影画像とのボケ成分を比較しながらベース、統計的モデルに基づくノイズ低減処理を実施する。ノイズと構造物を分別するよう、逐次その誤差を修正した投影画像を作成した後に再構成することで、ノイズの少ないトモ画像を作成する手法である。高い吸収係数をもつ組織については、本手法により構造を維持しつつノイズ低減が行われるため、細かい構造物の描出能を落とすことなくトモ画像が得られる。

3 結語

われわれはこれまでのX線透視撮影機能にとどまらず、一般X線撮影やトモシンセシス撮影機能を備えることで、ご利用の医療従事者だけでなく病院経営の観点でも喜んで頂けるような多用途システムとして、CUREVISTA Openを開発した。今回、装置の数ある機能のうち、断層画像を取得可能なトモ撮影に注目し、金属アーチファクト低減技術、コントラスト変換技術、ノイズ低減技術の各テーマにおける高画質化・高機能化技術を紹介した。今後もすべての人々が健康に暮らせる社会を実現するため、われわれは装置開発を通じて、社会に貢献していく所存である。

販売名:汎用X線透視診断装置 EXAVISTA
医療機器認証番号:220ABBZX00236000

販売名:汎用X線透視診断装置 CUREVISTA Open
医療機器認証番号:302ABBZX00032000

※1 EXAVISTA、※2 CUREVISTA、※3 HiMARは富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。

参考文献

1.
H. Machida,et al.:Whole-Body Clinical Applications of Digital Tomosynthesis.Radiographics, 36(3):735-750,2016
2.
H. Machida,et al.:Optimizing Parameters for Flat-Panel Detector Digital Tomosynthesis.Radiographics, 30(2):549-562,2010
3.
K. Yamakawa,et al.:Metal artifact correction based on combination of 2D and 3D region growing for x-ray tomosynthesis.SPIE Medical Imaging 2019: Physics of Medical Imaging, 1094809, 2019.
4.
大武修一郎:汎用X 線透視診断装置 EXAVISTAのトモシンセシス撮影機能-整形外科領域における有用性-.MEDIX,68:41-45,2018.