CT装置Supria Opticaの開発Development of CT System "Supria Optica"

  • 桶田 隆継Takatsugu Oketa
  • 高橋 健太郎Kentaro Takahashi
  • 吉野 史章Fumiaki Yoshino
  • 鈴木 悠太Yuta Suzuki
  • 小池 秀明Hideaki Koike

富士フイルムヘルスケア株式会社

来る超高齢社会におけるニーズへの対応をめざしたSupria※1およびSupria Grande※2は、2021年12月までに累計で3,000台以上を世に送り出すことができた。今回、従来のコンセプトをそのままに、さらに幅広い要望に対応するため、電源設備容量やX線管陽極熱容量、検出器列数などの豊富なバリエーションを実現するとともに、独自の技術を駆使した新製品を開発したので紹介する。

"Supria※1" and "Supria Grande※2" aim to meet the needs from coming Super-Aged society, and 3,000 units have already been sold by December 2021. In this report, we introduce the latest products which are equipped with the wide variety of major components, such as the electric power capacity, X-ray tube anode heat capacity, detector row, and the unique image processing technology, while keeping the current product concepts.

Key Word

  • AI
  • IPV
  • SynergyDrive

目次

1 はじめに

日本における65歳以上の高齢者人口の割合は2007年に21%を超え超高齢社会に入り、以降も急激な増加を続けている。1)

高齢者人口の増加に伴う疾病構造の変化や要介護者の増加などにより、地域を支える医療機関で求められるCTシステムのニーズも低線量やワークフローの効率化などに変化している。

高齢者に対しては息止めや体位の維持などの負担を考慮し、撮影時間や検査時間は短いことが望ましい。また、認知症患者の場合も頭部検査に限らず、併発している身体的疾患の検査が必要なため、全身にわたる検査部位に対応可能な、高解像度の画像を高速に得ることができるCT検査が高齢者検査に適しているとされる。2), 3)

このような超高齢社会におけるニーズへの対応をめざし、2013年に16列CT装置Supriaを、2015年には64列CT装置Supria Grandeを開発し、2021年12月までに世界50か国以上へ累計3,000台以上を出荷した。

高速・広範囲撮影と高画質を両立しつつ、コンパクトで高いコストパフォーマンスを実現し、特に16列CT装置並のコンパクトさでありながら全身領域の検査にフォーカスしたコンセプトを持つ64列CT装置、Supria Grandeは高い評価をいただいている。2), 3)

今回、そのSupria GrandeにAI技術を用いて開発した画像処理機能IPV※3や、検査効率向上技術SynergyDrive※4を搭載し、低被ばくかつ高画質な画像の提供と快適な検査環境の実現に貢献する64列CT装置、Supria Optica※5を開発した(図1)。

以下にSupria Opticaのシステム概要と特徴を解説する。

図1 Supria Optica外観
図1 Supria Optica外観

2 システムの概要

2.1 低線量での撮影時にも高画質な画像を提供

富士フイルムヘルスケアのCTシステム「Supria Optica」には、AI技術を活用して開発した画像処理機能IPVを搭載している。これにより、本装置のFBP※6を使用した場合と比較して被ばく最大83%、画像ノイズ最大90%の低減を実現し、さらなる低被ばくかつ高画質な画像の提供を可能にしている。

2.2 被検者の負担軽減

従来から高い評価を得ている75cmの大開口径を継承したことにより、被検者のポジショニングにおいて高い自由度を維持している。また、常時フルFOV※7データ収集を可能とし、40mm幅の64列検出器を搭載したことにより高速撮影が可能となり、検査時における被検者の負担軽減が期待できる。

2.3 検査効率向上

「Supria Optica」は検査効率向上技術SynergyDriveを搭載したCTシステムである(図2)。被検者の入室から退出までの検査工程を細分化し、操作者に負担のかかるシーンを自動※8化することで、検査効率を向上させ、検査時間の大幅な低減を実現している。

図2 SynergyDriveのイメージ
図2 SynergyDriveのイメージ

2.4 トータルコストの抑制

幅広い検査に対応できる64列CTシステムでありながら、16列CTシステムと同等の2MHU X線管装置、電源容量30kVAでの運用を可能にしたことで導入およびランニングコスト抑制に貢献できる。

さらに、AI技術を活用して開発した画像処理機能IPVを組み合わせることで、最大12MHU相当(換算値)※9の性能が得られ、ランニングコストは据え置きで、従来の2MHU X線管装置搭載の16列CTシステム以上の高画質な画像を提供できる。

3 Supria Opticaの技術

3.1 IPV

IPV(Iterative Progressive reconstruction with Visual modeling)は次世代の逐次近似処理である。CT検査数や3D画像処理の増加に対応するため、CT装置のさらなる被ばく低減、検査効率の向上を目的にAI技術を活用して開発した。IPVは低被ばくと高画質の両立をめざし、特に画像の質感に着目して開発を行った。

IPVでは高周波から低周波まで均等な割合で、ノイズテクスチャを調整しながらノイズ低減をすることで、視認性に影響を与える周波数特性(Normalized NPS)を従来の画像再構成法であるFBP(Filtered Back Projection)法に近づけている。これにより、高いノイズ低減率においても、画像の質感を維持し、低線量時でも視認性の優れた画像を実現した。従来のFBP法と比較して、低コントラスト分解能を維持しながら最大83%の被ばく低減が可能である。

また、IPVは設計手法としてAIを活用して開発した。具体的には、充分な反復処理により得られる画像を教師データとして、逐次近似処理によるノイズ低減過程(ノイズ成分と信号成分の識別過程)を学習することで実現した。

IPVの画像処理は、追加のハードウェアを必要としないことも特長である。施設の設備や検査規模に依らず、既存の検査への適用を可能とした。

3.2 IntelliEC PlusとHiMAR+

Supriaでは当初から、被検者の体格や部位によるX線減弱の違いに応じて、読影に必要な画質を得られるよう、適切に管電流を制御する自動線量制御(auto exposure control:AEC)であるIntelliEC※10を実装している。Supria Opticaでは、このIntelliECにIPVのノイズ低減率を考慮したIntelliEC plusを搭載した。

また、金属によるアーチファクトを抑制する技術として、HiMAR+※11を搭載した。HiMAR+は、投影データ空間での補正と画像データ空間での補正を組み合わせたハイブリッドな補正技術である。

撮影により収集されるRawDataから一度画像を作り、その画像をもとに投影データ用の補正量を算出してRawDataを補正する。そのRawDataを再度再構成することで、高吸収体による急激なX 線減弱に起因するメタルアーチファクトを低減する機能である。

3.3 SynergyDrive

「スキャノグラムの投影情報からスキャン範囲を判定して撮影計画ラインを自動設定する機能※12であるAutoPoseや、撮影後に自動で解析処理を実行する自動解析機能を、事前に撮影プロトコルの一部として設定することができ、操作者の負担を軽減して検査のスループット向上が期待できる(図3)。

被検者は同時に3人まで検査中の処理状態を保持することができ、操作画面上のタブ表示形式で被検者を切替表示することができる(図4)。再構成エンジンはSCENARIA View※13と同等のものを搭載し、撮影では最速60枚/秒の画像再構成を実現した。

図3 AutpPose設定画面
図3 AutpPose設定画面
図4 被検者切替タブ表示例
図4 被検者切替タブ表示例

4 まとめ

16列CT装置と同じコンパクトサイズを維持したまま、高速・広範囲撮影と高画質を両立した64列CT装置Supria Grande に、AI技術を用いて開発した画像処理機能IPVや、検査効率向上技術SynergyDriveを搭載し、低被ばくかつ高画質な画像の提供と快適な検査環境の実現に貢献できる64列CT装置Supria Opticaを開発した。

これにより、低線量で従来と同程度の画像を得ることができ、被ばく低減に大きく寄与することができる。またこれまでと同じ線量で撮影した場合は、より高画質な画像を得ることができるため、診断の幅を拡げることが期待できる。もちろん、ランニングコストは従来通りであり、トータルコストとしても十分ご満足頂ける装置に仕上がったと考えている。

Supria Opticaは、超高齢社会のさまざまな医療ニーズに応えるための富士フイルムヘルスケアの提案のひとつである。

※1 Supria、※2 Supria Grande、※5 Supria Optica、※10 IntelliEC、※11 HiMAR、※13 SCENARIA View、SCENARIAは、富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。
※2
Supria Grandeは、「全身用X線CT診断装置 Supria」の64列検出器搭載モデルの呼称です。
※3
IPVはIterative Progressive reconstruction with Visual modeling の略称です。AI技術のひとつであるMachine Learningを活用して開発した機能です。導入後に自動的に装置の性能・精度が変化することはありません。
※4
SynergyDriveはワークフロー向上技術の総称です。AI技術のひとつであるMachine Learningを活用して開発した機能を含みます。導入後に自動的に装置の性能・精度が変化することはありません。
※5
Supria Opticaは、「全身用X線CT診断装置 Supria」の64列検出器かつ2MHU X線管装置搭載モデルの呼称です。
※6
FBP(Filtered Back Projection):CT画像の再構成方法で、X線の投影データを逆投影することによって、ノイズを除去し、CT画像を構築します。
※7
FOVはfield of view の略で撮影視野のことです。
※8
自動で算出された撮影範囲を操作者が確認、調整します。
※9
2MHUのX線管装置と逐次近似処理IPVとの組み合わせによる換算値です。
※12
自動設定後に操作者による確認が必要です。

販売名:全身用X線CT診断装置 Supria
医療機器認証番号:225ABBZX00127000

販売名:全身用X線CT診断装置 SCENARIA View
医療機器認証番号:230ABBZX00027000

販売名:全身用X線CT診断装置 SCENARIA
医療機器認証番号:221ABBZX00081000

参考文献

1.
総務省統計局人口推計(平成21年10月1日現在)
2.
鈴木伸和:「泌尿器科専門クリニックにおける64列CT導入の意義」.新医療2016年4月号:40-42.
3.
近藤貴裕 他:「精神科医療と認知症医療に果たす最新型64列CTの検査の意義と有用性」.新医療2016年5月号:108-112.