AutoExamが実現するMRI検査の効率化Improvement of the efficiency of MRI examination through the AutoExam

  • 白猪 亨Toru Shirai
  • 横沢 俊Suguru Yokosawa
  • 永尾 尚子Hisako Nagao
  • 櫻木 健太Kenta Sakuragi
  • 高橋 信司Shinji Takahashi
  • 吉田 安秀Yasuhide Yoshida
  • 河田 康雄Yasuo Kawata
  • 瀧澤 将宏Masahiro Takizawa

富士フイルムヘルスケア株式会社

近年、高齢化に伴うMRI検査数の増加に対応するために、検査スループットを向上し、一日の検査数を増やすことが求められている。MRI検査のスループットを向上するためには、放射線技師のワークフロー改善が重要なポイントとなる。われわれは、位置決めから本撮像、解析やクリッピングなどの後処理、DICOM転送を1 Clickで実施できるAutoExam機能を開発した。AutoExamにより操作者が任意で、撮像の停止・修正・再開を行うセミオート検査も可能となり、検査スループットの向上に寄与する。本稿では、AutoExamの特長について紹介する。

In recent years, in order to cope with the increase in the number of MRI examinations due to aging, it is required to improve the examination throughput and increase the number of examinations per day. In order to improve the throughput of MRI examinations, it is important to improve the workflow of radiologists. We have developed an "AutoExam" that enables examinations of scan parameter setting, positioning, image processing, display, storage, and transfer to PACS in one click. AutoExam enables semi-automatic examinations in which the operator arbitrarily stops, corrects, and resumes imaging, which contributes to the improvement of inspection throughput. This article introduces the features of AutoExam.

Key Word

  • Magnetic Resonance Imaging
  • AutoExam
  • AutoPose
  • AutoClip

目次

1 はじめに

MRIは非侵襲に任意断面の撮像が可能であり、脳などの軟部組織の抽出に優れていることから画像診断分野では不可欠な診断装置となっている。しかし、MRI検査は、X線CT検査などに比べて検査時間が長いことから、MRI検査時間の短縮、すなわち検査スループットの向上が望まれている。MRI検査のスループット向上のためには、撮像時間の短縮のほか、コンソール操作の簡便化につながる操作ワークフローの改善などが重要となる。われわれは、撮像時間の短縮のために、信号のアンダーサンプリングと繰り返し演算処理を組み合わせた高速撮像技術「IP-RAPID」を開発した1)。また、操作ワークフロー改善のために、MRI検査におけるコンソール操作の簡便化と操作時間を短縮する「AutoExam」機能を開発した。

AutoExamは、位置決めから本撮像、解析やクリッピングなどの後処理、DICOM転送までを1Clickで行うことができる(図1)。AutoExamは、煩雑な位置決め処理をサポートする「AutoPose」機能と、MRアンギオグラフィー(MRA)画像における不要組織の除去処理(クリッピング)をサポートする「AutoClip」機能が含まれている。本稿では、AutoExamの主要機能であるAutoPoseとAutoClipについて、その概要を説明する。

図1 AutoExamの主要機能
図1 AutoExamの主要機能

2 位置決め処理をサポートするAutoPose

MRIの検査では、はじめに、被検者の位置を同定するためにスカウト撮像を行う。MRI検査の撮像位置は、検査部位や疾患ごとに定められており、検査ごとに設定する必要がある。スカウト撮像の撮像時間は約15秒であり、この間に、直交する三軸に垂直な断面を複数スライス撮像する。操作者は、スカウト画像上の解剖学的なランドマークに基づき、マウス操作等で撮像位置を設定する。撮像位置は検査部位ごとにほぼ決まっているため、検査のたびに同じような操作を繰り返すこととなる。大抵の場合、すぐにこの操作に慣れるため、位置決めは煩雑な単純作業となる。

近年、ワークフロー改善の一環として、手動での撮像位置設定を自動化する「自動位置決め」機能の開発が行われている2)。しかし、これらの手法では3Dのスカウト撮像を基本としており、スカウト撮像開始から自動設定が完了するまでの時間が、手動に比べて長くなる傾向にある。そこで、われわれは、従来の手動設定と同じ2Dのスカウト画像を用いることにより、時間延長のない頭部自動位置決め機能「AutoPose」を開発した。AutoPoseでは、直交三軸断面のスカウト撮像をマルチスライス(5枚)にて実行し、得られた画像から頭部の自動位置決めを行う。本手法は大きく3つのステップから構成される。
ステップ1では、アキシャル画像とコロナル画像から正中面の位置を計算する。ここでは、正中面が頭部をほぼ左右対称に分断するという形態的な特徴と、正中線と脳実質の画像コントラストを利用する。
ステップ2では、ステップ1で計算した正中面の位置情報を用いて、マルチスライスのサジタル画像から補間処理にて正中面画像を作成する。
ステップ3では、ステップ2で作成した正中面画像上の解剖構造をActive Shape Model 3)を用いて認識した上で、あらかじめ定めた5種類の推奨撮像位置のうち、指定した1つの推奨撮像位置を計算し、操作ディスプレイ上に表示させる4)

AutoPoseの精度を確認するため、1.5T MRIにて撮像したスカウト画像(撮像時間15秒)を用いて、本手法における位置精度を評価した5)。本評価は、社内倫理審査基準に則り認可され、インフォームドコンセントを得た17名の健常ボランティア(男性13人、女性4人、26~43歳)を複数回撮像し、診療放射線技師の有資格者2名が評価した。評価者がそれぞれ位置決め可能と判断した画像に対して、正中面位置と三つの基本的な撮像位置(OMライン、AC-PCライン、脳幹平行ライン)の角度誤差をそれぞれ評価した。

図2に健常ボランティア3名のAutoPose自動位置決め結果をそれぞれ示す。図2に示すように、AutoPoseはさまざまな傾きの画像に対して推奨撮像位置が提示される。また、図3に示すように、評価者が手動で撮像位置を設定できると判断したすべてのスカウト画像において、撮像位置の角度誤差は±5度以内であった。またこのときの自動位置決めの処理時間は約2秒であった。

以上より、AutoPoseは、短時間かつ安定に推奨撮像位置を提示できることから、操作ワークフローの改善につながることが示唆される。また、被検者の頭部体位のばらつきがある場合や、MRI操作に不慣れな操作者でも再現性の高い撮像が期待できる。

図2 AutoPoseによる自動位置決め結果
図2 AutoPoseによる自動位置決め結果
図3 AutoPoseの精度評価結果
図3 AutoPoseの精度評価結果

3 MRA画像クリッピングをサポートするAutoClip

Time of flight MR Angiography(MRA)は、非侵襲的に未破裂動脈瘤の検索や脳の血流情報が得られるため、脳のMRI検査において必要不可欠な撮像方法である。TOF-MRAを診断に用いる際は、通常、最大値投影(MIP; maximum intensity projection)処理を行う。このとき必要となるのが皮下脂肪等の不要信号を除去するクリッピング作業である。このクリッピング作業は、MRA画像に対して操作者が手動で行うため負担も大きく作業時間もかかる。また、操作者により作業結果にばらつきがあり、安定した結果にならないという課題がある。

そこでわれわれは、このクリッピング作業の簡便化を目的として、機械学習を適用した自動クリッピング機能「AutoClip」を開発した。クリッピング作業を自動化するためには、脳に近接した血管と、頸動脈等のように脳から離れた血管の抽出のほか、皮下脂肪等の不要信号の除去が必要となる。今回開発したAutoClipの処理フローを図4に示す。まず左右眼球を解剖学的ランドマークとして機械学習を用いて抽出する(図4(1))。その後、眼球位置に基づき標準位置からのずれを補正する(図4(2))。そして、ランドマーク上部領域に対しては、信号の局所均一性を指標とした領域抽出処理により脳領域を抽出する(図4(3))。また、ランドマーク下部領域は、血管信号の連続性と左右対称性から血管を抽出する(図4(4))。最後に抽出領域を結合することで不要信号を除去しながら診断に必要な血管領域を抽出する(図4(5))。

図5に、AutoClipによる自動クリッピング処理結果を示す。MRA撮像が終了すると、自動的にクリッピング処理を実行する。この処理により、もしも不要信号が残存し追加的にクリッピング処理をする場合が生じても操作者の負担は大きく軽減できる。

ここでAutoClipの精度を確認するため、さまざまな磁場強度および撮像条件で撮像したMRA画像に適用し、臨床応用の可能性について評価した6)。0.25T、0.3T、0.4T、1.2T、1.5T、3Tでそれぞれ撮像した健常ボランティアのTOF-MRA画像100例に対してAutoClipを適用した画像を、診療放射線技師の有資格者2名が評価した。評価では、日常の診療に適合させる観点で、以下のような4段階のランク分けをした(A : 追加のクリッピング処理が不要、B : 追加のクリッピング処理が必要、C : 血管が一部除去、D:血管が過剰に除去また皮下脂肪が大幅に残存)。このうちAとBは臨床上における有用性が高く、CとDは有用性が低いという評価指標とした。また、1.5Tで撮像した画像10例を用いて、手動クリッピングとAutoClip処理とのクリッピング時間を評価した。

図6に示すように、A評価が77%、B評価が23%となり、磁場強度や撮像条件によらず多くの画像で臨床上有用性が高い評価となった。また、AutoClipは手動クリッピングよりも平均処理時間がおよそ30秒と短く、手動クリッピングよりも約80%の時間短縮となった。

以上より、AutoClipは、クリッピング処理に不慣れな操作者でも、短時間でかつ再現性の良い血管像が得られ、検査ワークフローの短縮につながることが示唆された。

図4 AutoClipの処理フロー
図4 AutoClipの処理フロー
図5 AutoClipによる自動クリッピング結果
図5 AutoClipによる自動クリッピング結果
図6 AutoClipを適用した画像の視覚評価結果
図6 AutoClipを適用した画像の視覚評価結果

4 AutoExamの操作性向上効果

これまで述べてきたAutoPoseおよびAutoClipを含んだAutoExam機能による操作性向上効果を、従来の手動操作とAutoExam適用操作で比較評価した。本評価では健常ボランティア1例の頭部検査プロトコルを、診療放射線技師の有資格者1名が実行した。位置決めやクリッピング処理などの操作時間とマウスクリック数を計測した。ただし、AutoClipはバックグラウンド処理のため操作時間からは除外した。

図7に示すように、手動操作の操作時間は4分50秒、クリック数は100回であった。これに対して、AutoExamはそれぞれ37秒と1回であった。したがって、AutoExamにより操作時間は87%短縮でき、マウスクリックの回数は99%低減された。以上より、AutoExamは操作性が向上し操作時間の短縮に大きく寄与できるものと考えられる。

図7 AutoExamの操作性評価結果
図7 AutoExamの操作性評価結果

5 結語

AutoExamは、頭部検査のコンソール操作で必要とされる位置決め、本撮像のスタート、解析やクリッピングなどの後処理、DICOM転送までを1Clickでできることから、操作性の向上と操作時間の短縮ができ、MRI検査スループットの向上につながる機能であると考えられる。さらに、操作者による設定や処理のばらつきも低減できることから、操作に不慣れな技師でも、再現性が高く安定な検査をすることが可能となり、医療の質の向上にもつながることが期待される。

参考文献

1.
白猪亨, ほか:逐次再構成法を用いたMR高速撮像技術. MEDIX, 技術論文, 2021.
2.
Itti L., et al., Automatic scan prescription for brain MRI. Magnetic Resonance in Medicine 2001; 45:486-494.
3.
Cootes TF., et al., Active Shape Models-Their Training and Application. Computer Vision and Image Understanding 1995; 61(1):38-59.
4.
Yokosawa S., et al., Automated Scan Plane Planning for Brain MRI using 2D Scout Images. Proceedings of the 18th Annual Meeting of ISMRM, Stockholm, 2010; 3136.
5.
横沢俊, ほか : 頭部検査における2Dスカウト画像を用いた高速自動位置決め手法.第38回日本磁気共鳴医学会大会, 2010; T-2-216.
6.
原田邦明, ほか : 機械学習を取り入れた脳血管TOF-MRAの自動処理機能の評価.第75回日本放射線技術学会総会学術大会, 2019; O213.