「わかりやすいMRI解説シリーズ その2 ~MRI画像の再構成手法~」

技術情報「わかりやすいMRI解説シリーズ その2
~MRI画像の再構成手法~」

「わかりやすいMRI解説シリーズ その2 ~MRI画像の再構成手法~」

八杉幸浩 Yukihiro Yasugi 富士フイルムヘルスケア株式会社

MRIの基本原理の解説を行う本シリーズ2回目の今回は、MRIの難解な画像再構成手法について説明してみたい。

MRIでは受信信号の周波数と位相という2種類の情報から2次元画像を得ている。
「位相」という観念はあまり一般的ではないため、ここではメトロノームを用いて説明する。
メトロノームは重りの位置を変えるとテンポ=「周波数」が変化する。ここで、振り子の左右位置が「位相」に対応する(図1)。

図1 2DFT画像再構成の考え方 その1

図2の3×3マトリクスの画像は9個の画素であるメトロノームから構成され、受信される信号は全てが合成されたものである。この受信信号がどの位置から来たものなのかを特定することが撮像の本質である。
横方向を周波数方向とし、縦方向を位相方向と呼ぶことにする。
傾斜磁場の無い状態では、すべての画素の周波数、位相がそろっており、受信される信号は単一の周波数、位相である。

図2 2DFT画像再構成の考え方 その2

周波数方向に傾斜磁場を与えると、横位置で周波数がそれぞれ異なり、この結果、位相も横位置で変化する(図3)。

図3 2DFT画像再構成の考え方 その3

同様に位相方向の傾斜磁場を与えると縦位置で周波数、位相が変化することがわかる(図4)。

図4 2DFT画像再構成の考え方 その4

はじめに位相方向の傾斜磁場を印加しておき、これを切ると周波数は同一で位相が縦列の位置で異なる状態になる。
さらに周波数方向の傾斜磁場を印加すると、縦位置で位相が異なったまま、横位置で周波数が異なる結果となり、それぞれの画素に周波数、位相という2つの情報を重畳したことになる(図5)。

図5 2DFT画像再構成の考え方 その5

ここで、AとBの2つの画素に注目して考えてみる。横の位置は周波数方向に傾斜磁場を印加し、得られる信号を周波数分析(フーリエ変換)することで知ることができる。
つまり、メトロノームのテンポから判断できる(図6)。

図6 2DFT画像再構成の考え方 その6

縦の位置は位相方向の傾斜磁場を変えながら3回信号を得て、その位相変化の様子を分析することにより可能となる。
これは振り子の位相変化を3回の受信信号から読み取ることである。
まず、位相方向傾斜磁場を-1にして与え、位相情報をそれぞれの画素に重畳し、周波数方向傾斜磁場を与えて信号受信する。これを信号1とする(図7)。
信号受信の際には、必ず周波数方向の傾斜磁場を与えて行う点に注意されたい。

図7 2DFT画像再構成の考え方 その7

次に、位相方向傾斜磁場を与えないで(傾斜磁場=0に相当)、信号受信する。これを信号2とする(図8)。

図8 2DFT画像再構成の考え方 その8

最後に、位相方向傾斜磁場を+1にして与え、信号3を得る(図9)。

図9 2DFT画像再構成の考え方 その9

3つの信号を並べてみると、A、Bで位相変化が異なることがわかる。
Aは位相傾斜磁場による変化がなく、Bは進み方向に変化している。
この結果から、進み方向に変化する信号は上の列、変化がなければ中央、遅れ方向に変化すれば下の列という判断ができるのである(図10)。

図10 2DFT画像再構成の考え方 その10

ここで重要なことは、位相方向に3列の画素を分離するためには3つの信号が必要であり、位相方向傾斜磁場を変えながら、3回の受信を行わなければならないという点である。
現実のMRI撮像では、256×256マトリクス程度の画像を撮像するため、信号を256回受信する必要がある。これがMRI撮像に時間がかかる原因となっている。
また、撮像中に被検者が動いてしまうと、位相エンコード方向の解析に影響が出ることが解る。これが位相方向にのみモーションアーチファクトが生じる原因である。
さらに、撮像の途中で信号受信を止めてしまうと、画像の一部も再構成することができないことも理解されよう。
この手法は周波数分析と位相分析の2方向でフーリエ変換を行うことから2次元フーリエ変換(2DFT)画像再構成と呼ばれている(図11)。

図11 2DFT画像再構成の考え方 その11

実際は各画素からの信号の有無ではなく、信号の大きさを受信情報として得ている。
これは各画素の水素原子の存在量を表す。そこで、信号量に応じて各画素に濃淡表示を行えば、水素原子すなわち水分量に応じた画像を得ることができる(図12)。

図12 2DFT画像再構成の考え方 その12

さらに、より実際的に解説を続ける。
MRIでは画像という2次元の情報をスピンからのエコー信号という形で受信している。
エコー信号を発するスピンの個々は非常に小さいが、画素ごとのかたまりと考え、これを回転するコマで表現する。
コマの回転数がスピンの周波数であり、コマの向きがスピンの位相ということになる(図13)。

図13 スピンゴマの定義

画像の明るい画素は信号が大きいので、これを大きなコマとして表現する。
MRIでは傾斜磁場を利用することによって、スピンの周波数を変えることができ、その印加履歴によってスピンの位相を自由に設定できる。
画像の横方向(X軸)に傾斜磁場を印加しながら信号を受信すると、これは横方向の画素ごとに周波数の異なるスピンからの信号波形となる。
ここで、縦方向(Y軸)の画素については分離ができないので、縦方向に積算された信号となっている(図14)。

図14 画素とスピンゴマ

エコー信号は各スピンの周波数が混ざった形で受信され、これを分離するには、フーリエ変換を用いる。
横方向傾斜磁場の印加(周波数エンコード)とフーリエ変換によって、横方向の画素における位置情報検出は容易に可能である。
次に縦方向の画素の分離は位相情報を利用する。これは、縦方向に印加する傾斜磁場の履歴(位相エンコード)で行うことができる。
あらかじめ決められた縦方向の画素の位相を位相エンコードで与えておき、周波数エンコードを印加しながらエコー信号を受信する。
ここで重要なポイントは分離する画素の数だけ異なった位相エンコードが必要であるということだ(図15)。

図15 フーリエ変換による画像再構成

この手法により、得られたすべての信号をフーリエ変換することで、元の画像を再構成できるのである(図16)。

図16 2DFT画像再構成の利点

MRIはどうしてこのような複雑な撮像手法を用いるのか?
それはMRIでは受信される信号が非常に微弱であるために、効率良く受信する必要があるためだ。
通常、MRIの撮像では128~256画素程度の画像分解能を必要とするので、128~256回程度の位相エンコードを用いて撮像を行う。これは信号の積算がその回数分行われる事を示しており、撮像時間がかかる反面きわめて信号の採取効率が高い撮像法であり、画像のSN比を改善することができる手法なのである。

その3 ~MRIのパルスシーケンス~ につづく