乳房超音波アプリケーションeScreening販売後の評価レビュー Breast Ultrasound Application “eScreening” Post-sale Evaluation Review

  • 桒山 真紀1)Maki Kuwayama
  • 井上 健太1)Kenta Inoue
  • 竹本 昂生2)Kosei Takemoto
  • 藤原 洋子1)Yoko Fujihara
  • 西浦 朋史1)Tomofumi Nishiura
  • 辻田 剛啓1)Takehiro Tsujita
  • 村山 直之1)Naoyuki Murayama

1) 富士フイルムヘルスケア株式会社

2) 富士フイルム株式会社

富士フイルムヘルスケア株式会社は、2022年10月にARIETTA*1 850 DeepInsight※1 *2にAI技術※2を活用したeScreening機能を搭載した。eScreeningは乳房超音波検査における検査者の負担軽減を目的として、周囲と輝度の特徴が異なる領域をリアルタイムに超音波画像上で強調する。本機能の開発コンセプトに対する妥当性と課題について分析したので報告する。

In October 2022, FUJIFILM Healthcare Corporation installed eScreening function that utilizes AI technology on the ARIETTA*1 850 DeepInsight*2. eScreening aims to reduce the burden on examiners in breast ultrasonography by emphasizing areas with different brightness characteristics on ultrasound images in real time. We report here the result of the validity and issues of the development concept of this function.

Key Word

  • Breast Ultrasound
  • eScreening

目次

1 はじめに

近年の乳癌患者の増加、若年性・遺伝性乳癌等に対する関心の高まりなどから乳癌検診は重要である。死亡率低減効果が科学的に証明されているマンモグラフィを補完する目的として乳房超音波検査が選択されるが、超音波検査は検査者の依存性が高いと言われている1)。そして、乳腺組織は個人差だけでなくホルモンの影響を受けるため年齢、妊娠・授乳により多くのバリエーションがあるためさまざまな画像を呈する。特に厚みのある乳房や乳腺間質により減衰が生じやすい乳房では深部の観察に苦渋することがある(図1、図2)。

図1(a)(b):乳管-小葉が密な乳房超音波画像(c)(d):乳管-小葉が委縮した乳房超音波画像
図1(a)(b):乳管-小葉が密な乳房超音波画像
(c)(d):乳管-小葉が委縮した乳房超音波画像
図2 乳腺深部に境界不明瞭な病変が位置しており、検出が難しい
図2 乳腺深部に境界不明瞭な病変が位置しており、検出が難しい
(社会福祉法人 恩賜財団 済生会松阪総合病院 乳腺外科 柏倉 由実先生ご提供)

信頼される超音波検査は、乳房構成に偏ることなく病変観察可能な検査が行われることが前提と言われている。しかし、現状では検査に必要な技術・知識の習得には時間がかかる一方、検査時間の制約もあり検査の効率と精度の両立を求められ、検査者の身体的・精神的負担が課題となっている2)

富士フイルムヘルスケア株式会社は、2022年4月、DeepInsight*2シリーズ2機種「ARIETTA*1 850 DeepInsight」「ARIETTA 650 DeepInsight※3」、そして2023年4月には第3弾として「ARIETTA 750 DeepInsight※4」を発売した。AI技術※5を活用して開発したDeepInsight技術をはじめとした新技術により、超音波画像のさらなる高画質化を実現した。
Deepinsight技術により、深部まで高解像度の画像が得られるようになり、被検者および検査者の依存低減に貢献するものの、検査者の身体的・精神的負担の解消とは言い切れず課題が残る。

その課題解決の一つとして「ARIETTA 850 DeepInsight」では、乳房超音波検査において、周囲と輝度の特徴が異なる領域をリアルタイムに超音波画像上で強調する機能「eScreening」を搭載している。
リアルタイムに輝度特徴量が異なる領域を強調表示することにより、検査中の病変検出プロセスに情報を提供し、集中力や注意力からくる疲労といった負担軽減に寄与することを期待している。

本稿では、われわれが設計した「eScreening」のコンセプトに対する妥当性と課題について、医療機関への導入・試用持ち込み時にヒアリングを行い分析したので報告する。

2 eScreeningの特長

eScreeningは乳房超音波検査における検査者へのサポート機能であり、AI技術を活用し周囲と輝度特徴量(AIに入力されたBモード画像に含まれる、学習データに共通した特徴の総量)が異なる領域を検出し、輝度特徴量がしきい値以上の場合強調表示する(図3)。
強調表示するためのマーク(eScreening Mark)だけでなく、輝度特徴量の分布を示すマップ(eScreening Map)と輝度特徴量の最大値を時系列に並べたグラフ(eScreening Graph)を表示し、強調の程度や継続時間を可視化することで、ブラックボックスと表現される「AIの思考プロセスの不明確さ」に対する説明性・信頼性を間接的に補うものである3)4)

図3  eScreeningのファントム撮像時の表示例
図3 eScreeningのファントム撮像時の表示例
eScreening Mark ②eScreening Map ③eScreening Graph

3 eScreeningのコンセプト

利用シーンは主に検査室や検診機関におけるスクリーニングやクリニックなどで検査中に容易にダブルチェックを行うことが困難な状況を想定した。顧客ベネフィットとしては、検査者の身体的・心理的負担軽減(疲労や動体視力低下時の見落とし5)6)・検査時間の延長に対する不安の軽減)やワークフロー安定化(常時安定した検出環境維持を支援)を期待している。すなわち、常時eScreeningが起動した状態で検査可能であること、観察条件に影響せず検査フローを損なわないことが重要な要素であると考えた。そこで本機能動作時においても画質条件は顧客が適当とする撮像条件を維持し、フレームレートは最大30F/Sとしている。これは一般的な検査におけるプロービングのスピードにおいて5mmの物体が3フレーム程度強調表示することが可能なフレームレートである。

4 方法

2022年11月~2023年5月の期間において、装置導入後および試用期間に検査を行った施設に対して、次の①から⑧に示す項目についてヒアリング形式により回答を収集し、設定コンセプトに対してヒアリングから得られた結果を考察した。対象は41施設、45診療科である(表1と表2に詳細を示す)。

  • ①利用シーン
  • ②利用者の設定
  • ③使用タイミング
  • ④強調してほしい対象
  • ⑤検出精度/Markの一致性
  • ⑥Map・Graphの有用性
  • ⑦撮像条件・追従性・ワークフロー
  • ⑧総合評価
大学病院・がんセンター 11
総合病院 24
クリニック(検診含む) 6

表1 対象施設規模別内訳

検査科 24
乳腺外科 13
放射線科 6
健診 2

表2 対象施設診療科別内訳

5 結果

各項目に対して得られた回答を表3に示す。

  設定したコンセプト ヒアリングで得られた回答
①利用シーン ・検診・スクリーニング目的 ・検診~精密検査
②利用者 ・独り立ち後~中級者 ・初学者~熟練者
③使用タイミング ・検査開始時~検査中 ・経験年数によって異なる
・熟練者は検査後のダブルチェック用途
④強調してほしい対象 ・5mm以上の塊状および類似したもの ・熟練者が認識しにくい5mm未満のもの
例)点状高エコー主体の所見
背景の乳腺と類似しているもの
⑤検出精度/Markの一致性 ・検出対象に対して乳房超音波講習会のA評価レベル7) ・5mm以上の検出良好
・乳腺内の太い乳管-間質の誤検出は異常との鑑別が必要なものとして認識できる
・乳腺内の太い乳管-間質の誤検出は検査時間の延長に繋がる
・肋骨や皮下脂肪の誤検出低減希望
・境界不明瞭な対象ではMarkの範囲の一致性が低下するため正確性向上を希望
⑥MapやGraphの有用性 ・強調表示の程度や時間的連続性を提供し、間接的に確信度に寄与
・必要に応じてMapやGraphを表示/非表示が可能
・Bモード画像に集中しすぎる状態ではMapやGraphの同時評価は困難
・Bモード画像上のMarkが示す範囲とMapの範囲が一致した方が理解しやすい
⑦撮像条件・追従性・ワークフローへの影響 ・5mm程度の対象で3フレーム表示
・通常の検査スピードを担保
・良好
・アーチファクトを形成しないようにスピード調整する契機となる
・検診目的では高フレームレートの要望
・他モードからダイレクトにeScreeningに遷移する方が使いやすい
⑧総合評価 ・非情に良い:2診療科
・良い:36診療科
・どちらとも言えない/良くない:7診療科
*どちらとも言えない/良くないの理由として誤検出が多い

表3 設定したコンセプトに対してヒアリングから得られた回答

6 考察

45診療科のうち、8割以上の施設で非常に良い/良いとの評価が得られた。どちらとも言えない/良くないとの評価の理由として誤検出が多いことが挙げられた。
eScreeningは検診・スクリーニング時の利用については賛同が得られたが、精密検査でも利用したいとの意見もあった。その場合の使用タイミングとして、熟練した医師・技師ではコンセプトとして想定していなかった通常スキャン終了後にeScreeningを起動し、見直し目的とする施設があり新しい発見となった。
強調対象としては乳がん検診の目標値と過剰診断の課題を考慮し設定したが、精査機関だけでなく検診機関であっても、検診の対象とならない石灰化主体(図4)や正常乳腺のバリエーションとの鑑別が難しい所見(図5)の検出を要望する声もあった。これは輝度特徴量の観点から正常乳腺の誤検出とのトレードオフとなることから、非常に難易度が高いことが想定されるため慎重な検討が必要である。
eScreening使用時のBモード画像が通常の撮像条件と変わらず、eScreening Markの大きさが可変できることは、細部の観察に支障を来さないため受け入れやすさに繋がった。

強調表示された領域が有する「AIの思考プロセスの不明確さ」に対する観察者の判断・解釈の一助としてeScreening MapやeScreening Graphの活用を期待していたが、好反応ではあるものの観察視野には入りにくく、Bモード画像上のMarkが示す範囲とMapの範囲が異なるため判断が難しいとの意見があった。よりよく活用するにはこのような要望とともに、感覚的・定性的な表示から客観的・定量的な表示への変更が望ましいと考える。

追従性に関しては問題ないと評価する施設がある一方、一部の検査科・検診施設の技師は想定より速いスキャンスピードで検査を実施しており、高フレームレートと高速スキャンによるアーチファクト発生に対する画質ロバスト性強化の要望があった。性能面として現状の強調感度を担保するためには、「乳腺を伸展させる」「速すぎないスキャンスピードで行う」など適したスキャンをすることが条件となる。追従性向上(フレームレート増加)とそれに伴う誤検出改善が利用者拡大のポイントとなるであろう。

図4                     低エコー域は周囲の組織と輝度差が小さい。
図4 低エコー域に複数の点状エコーを認める。
低エコー域は周囲の組織と輝度差が小さい。
(社会福祉法人 恩賜財団 済生会松阪総合病院 乳腺外科 柏倉 由実先生ご提供)
図5 腫瘤内部に高エコーが混在し、一見正常乳腺のように観察される

図5 腫瘤内部に高エコーが混在し、一見正常乳腺のように観察される
(香川医療生活協同組合高松平和病院 乳腺外科 何森 亜由美先生ご提供)

7 まとめ

乳腺アプリケーション「eScreening」の開発コンセプトに対して臨床現場でのヒアリング形式にて妥当性と課題について調査した。
eScreeningは検診・スクリーニング時の利用については賛同が得られ、より安価な装置への搭載の要望も少なくない。近年注目されているAIを用いた機能という観点からも興味や好意的に受け入れる医師・技師は多い印象である。
硬さ評価や血流評価はBモードでの観察後の画像に対する質的診断に寄与する付加情報として日常的に活用されている。eScreeningをこれらの機能同様、Bモードでの観察時に取り上げるべき対象に絞り込むツールとしてハイエンドからミドルレンジの装置に展開し検査ワークフローへ浸透させるには「追従性」「強調精度」「強調対象の拡大」への継続した検討が必要である。
今後も乳房超音波検査の快適な環境実現をめざし、製品開発を推進したいと考える。

販売名: 超音波診断装置ALOKA*3 ARIETTA 850

医療機器認証番号: 228ABBZX00147000

販売名: 超音波診断装置 ARIETTA 750

医療機器認証番号: 301ABBZX00007000

販売名: 超音波診断装置ARIETTA 650

医療機器認証番号: 303ABBZX00058000

Powered by REiLI

※1 ALOKA ARIETTA 850はARIETTA 850 DeepInsightと呼称します。
※2 AI技術のひとつであるDeep Learningを用いて開発・設計したものです。実装後に自動的に装置の性能・精度は変化することはありません。
※3 ARIETTA 650はARIETTA 650 DeepInsightと呼称します。
※4 ARIETTA 750はARIETTA 750 DeepInsightと呼称します。
※5 AI技術のひとつである機械学習を用いて開発・設計したものです。実装後に自動的に装置の性能・精度は変化することはありません。
※6 富士フイルムは医療画像診断支援、医療現場のワークフロー支援、そして医療機器の保守サービスに活用できるAI技術の開発を進めこれらの領域で活用できるAI技術を「REiLI*4」というブランド名称で展開しています。
*1 ARIETTA、*2 DeepInsight は富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。
*3 ALOKAは日本レイテック株式会社の登録商標です。
*4 REiLIは富士フイルム株式会社の登録商標です。

参考文献

1)
日本乳癌学会編 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編 2022年版 第5版 金原出版
2)
乳房超音波検診における判定(読影)者の基準および精度管理について 日乳癌検診学会誌(J.Jpn.Assoc.Breast Cancer Screen)2012,2
3)
乳房超音波検査のワークフロー改善を目的としたeScreeningの開発 : MEDIX Focus
4)
ARIETTA 850 DeepInsight 製品ページ
5)
乳癌見落しが問題となった裁判例に見るエコー所見と精査義務 : 日本乳癌検診学会誌, 22(1) : 90-94, 2013.
6)
乳がん検診で所見を拾わないコツ・見落とさないコツ―MMGとUSを対比して― : 日本乳癌検診学会誌, 23(2) : 161-184, 2014.
7)
日本乳癌検診学会超音波精度管理委員会編 超音波による乳がん検診の手引き〜精度管理マニュアル〜 南江堂

ARIETTA 850 DeepInsight 製品ページ

ARIETTA 750 DeepInsight 製品ページ

ARIETTA 650 DeepInsight 製品ページ