納入事例救命救急でのCT活用例
救命救急センター初療室内にCTを設置することで患者の移動を伴わずに診断、治療、救命が可能に大阪市立大学医学部附属病院 救命救急センター
溝端センター長に聞く

萩原久哉富士フイルムヘルスケア株式会社

大阪市立大学医学部附属病院は、大阪市内で唯一の大学病院であり、地域医療における中核病院として、高度な総合医療機関の役割を担っています。病床数は精神病床と合わせて980床あり、内科系・外科系・中央部門合わせて38の診療科が設置されています。

大阪市立大学医学部附属病院
大阪市立大学医学部附属病院
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救命救急センターの沿革と理念

はじめに、救急医学教室と救命救急センターの概要について教えてください。

大阪市立大学医学部附属病院における救急診療部門は、1993年新病院竣工時に中央診療部門として開設された救急部に端を発します。当時は麻酔科を中心に、整形外科医や外科医が参加して運営していました。2005年に救急生体管理学講座(現、救急医学講座)が大学院に開設された際に、私が教授として着任し、救急部を運営することになりました。当時の受け入れ患者は、手指の再接着患者が半数で、残りは心肺停止や外傷など年間で350例くらいでした。救急部の施設は、病院地下の初療室1室と救急病棟14床で、院内集中治療病床1床程度を共用できるという状況で、大学病院の救急部門としては不十分なものでした。そこで新たに施設整備を行い、2010年2月に大阪府より大阪市内6か所目の救命救急センターとしての認可を受けました。こうして、現在ではより一層質の高い救急医療を提供すべき社会的責務を担うようになっています。近年は、年間700~1,000例の重症救急患者を受け入れています。

救命救急センターの理念について教えてください。

救命救急センターとして、重篤な患者にしっかりと対応していくという役割と、教育機関として若手医師を育てていく使命を認識しています。大阪市立大学医学部の建学の精神は「智・仁・勇」ですが、この3つは、救命救急医にとって特に重要です。医局の具体的スローガンを、「仲間とともに、知力を結集して、挑戦しつづけろ」と伝えています。よく救急医は体力勝負と言われますが、実は「智」が重要で、自分の知識や経験をフル活用して最善策を見出す知力が求められます。また「仁」の心として、失意のうちにある患者や家族に寄り添うことに加え、チームメンバーを気遣う心も必要です。また、「勇」では、患者や社会の危機に対して、常に挑戦し続けることが必要です。「智・仁・勇」を身に着け、日々取り組みを続けるなかで、ある時自分の限界を超えられることがあります。そして、その経験があるからこそ、救急医という仕事を続けられるのです。

医学部学舎玄関前の三女神像「智・仁・勇」
医学部学舎玄関前の三女神像「智・仁・勇」

初療室へのCT装置導入

初療室へCT装置を導入することになったきっかけについて教えてください。

救急部が始まった当初は、CTの撮影よりも手術室の利用制限が当科の主な問題でした。そこで、救命救急センター化の施設整備では、まず手術室を作ることを優先しました。近年、初療室にCT装置やアンギオを導入することで迅速に最適な処置が可能なハイブリッドERがいくつかの救命救急センターに整備されていますが、当院では救急専用のCT装置でさえも、その導入はハードルが高いものでした。病院からは、CT装置導入に対して費用対効果が常に求められます。ハイブリッドER導入であればなおさらです。ただ、今回、大阪府に対して救急医療目的で活用するための多額の寄付がありました。当院では、その寄付金をもとに、救命救急専用のCT装置を購入することとしました。

初療室に設置されたSupria※1 Grande
初療室に設置されたSupria ※1 Grande

初療室内にCT装置を設置する意義について教えてください。

救命患者を最初に処置する初療室にCT装置やアンギオなどのモダリティを集めたハイブリッドERというものがあります。日本で10施設くらいありますが、当院ではスペース的に問題がありました。2年前にX線透視Cアームをすでに購入していたため、CT装置の天板を活用して、この透視装置を用いることでカテーテル操作や骨折の整復固定を患者の移動なく実施できないかと考えていました。

近年、多列CT撮影装置の普及により、従来は 2分かかっていた撮影が、今は20秒まで短くなりましたと企業の方から言われます。しかし、われわれ救命救急医にとっては、撮影に要する時間はあまり変わりません。撮影室までの患者の移動に伴う時間や、撮影のための準備時間などを考えるとトータルで20分くらいかかるため、18分半にしか短縮されていないのです。初療室内にCT装置を設置することで、患者を移動させずに診断と処置が可能になります。このことのほうが時間短縮にとって非常に効果的なのです。富士フイルムヘルスケアのCT装置導入から半年経過しましたが、その点で当科の診療内容が大きく改善していると思います。その反面、若手医師の教育には必ずしも良くないと感じています。若手医師にとってCT装置を撮影することが当たり前になってしまうと、それが無い時に上手く対処できるか心配です。

溝端先生と営業の石下(取材時は溝端先生もマスクを着用)
溝端先生と営業の石下
(取材時は溝端先生もマスクを着用)

Supria Grandeとオフセット設置

Supria Grandeを導入したことによる効果について教えてください。

救急初療室では、透視下にカテーテル挿入を行う必要が生じる場合があります。例えば、院外心停止患者に対して、ECMO(Extra Corporeal Membrane Oxygenation:体外式膜型人工肺)を用いて蘇生を行うことがあります。搬入された患者に対して迅速にカテーテルを入れてECMOを開始しなければなりません。その際に、カテーテルが挿入できた血管が動脈か静脈かは非常に重要な問題です。心臓が拍動している場合には間違えませんが、心停止している状態では判断が難しい場合があります。透視を用いることで動脈と静脈を確認して確実にカテーテルを挿入でき、心拍再開までの時間を大幅に短縮したり合併症を減らせたりできる利点があります。

また横隔膜より下の腹部や骨盤内の大量出血に対して、バルーンカテーテルIABO(Intra-Aortic Balloon Occlusion:大動脈閉塞バルーン)を大動脈に挿入して血流を遮断するという手技があります。一時的に大動脈内でバルーンを膨らませることにより、上半身の血流を増加させ、腹部より下への血流を遮断して一時的に止血する効果があります。止血手技までのつなぎとして使用しますが、バルーンが今どこで膨らんでいるかを見るために透視は重要です。また、IABP(Intra-Aortic Balloon Pumping:大動脈内バルーンパンピング)という手技もあります。こちらは、心臓の収縮に合わせてバルーンを膨らませたり縮ませたりすることで、心臓に負担をかけずに冠動脈により多くの血液を送り出すことを可能にします。こちらも適切な場所にカテーテルがあるかどうか確認するためには透視が必要になります。CTガントリと寝台の間のスペースを利用して透視が行えることは非常に有用と考えています。

Supria Grandeと外科用Cアーム
Supria Grandeと外科用Cアーム

CTガントリと寝台をオフセット設置する際に注意した点について教えてください。

CTガントリと寝台との間に十分なスペースを確保する必要があります。ECMOやIABP、IABOのカテーテルの位置を確認するために、CTガントリと寝台の間に透視用Cアームが入るスペースが必要なのです。また、救急患者の処置で患者の頭側に医師が立ち、気道の確認や気管挿管を行うことがあります。そのため、CTガントリと寝台の間に医師が1人立てるスペースも必要です。体格の良い医師もいるため、スペースは広ければ広い程良いと思います。

さらに、CTガントリと寝台の間にあるケーブルカバーの高さも重要です。透視用Cアームがぶつからないようなカバー高とするだけでなく、医師が患者の頭側に立った時の周囲の医師との高低差にも注意しました。通常、カバーの高さは15cm程あるそうですが、可能な範囲で低くして頂きたいと富士フイルムヘルスケアに要望し、最終的には5cmの高さにして頂きました。今では、頭側に立つ医師と周囲の医師の高低差を気にすることなく使用しています。

CTガントリと寝台の間のケーブルカバー
CTガントリと寝台の間のケーブルカバー

コロナ禍と救急医学の教育

コロナ禍でのCT撮影や救命処置で気を付けている点について教えてください。

当科では基本的には救急受け入れ患者は全例コロナ疑い患者として対応しています。このようななか、コロナウイルス感染患者であるのか否かは可及的早期に判断できることが望ましいです。抗原検査やPCR検査も院内で実施できますが、感度や結果判定までの時間といった点から、より迅速かつ常時使用できる判断基準が求められます。当科では、2020年3月にCT装置を導入した後、4月からコロナ疑い患者を受け入れました。CT装置ですぐに胸部を撮影し、コロナ肺炎の有無を判断することで、コロナ疑いの解除に役立てています。その意味では非常に良いタイミングでCT装置を導入できたと思います。

救急医学教室としての、教育方針や研究について教えてください。

救急医としてのチームワーク能力向上に努めています。教育内容でチームワークまで検討している施設は、まだまだ少ないと思います。そのほか、リーダーシップ、チームマネジメントなど「智・仁・勇」を兼ね備えた救急医を育てたいと思います。

また、初療室にCT装置が導入されたことで、従来よりも10~15分早く救命処置が開始できるようになりました。CT装置を導入して半年になり、途中コロナ禍もありましたが、初療室CTを活用した治療成績の改善効果について評価していきたいと思います。

さらに、日本医科大学付属病院 高度救命救急センターの横堀教授のチームと一緒にVRゴーグルを活用した若手医師向けのシミュレーション教育も考えています。360度撮影された景色で、まるで救急室に自分が居るかのような臨場感があり、学生教育として取り入れようと考えています。ただ、事前に撮影された動画のため視聴型としての活用は可能ですが、その場で気管挿管を自分が試すなど参加型としての活用はまだまだこれからだと思います。

今後の期待

最後に、今後の救急医療に対する期待と展望について教えてください。

今回のコロナ禍で感じたことは、多くの救命救急医が大変活躍したことです。救急医の強みは、その時々の社会や患者の求める要請に対して、対応力があることです。コロナ患者などを診た経験が無い中で、ダイヤモンド・プリンセスの患者受け入れなど救急医が中心になって活動しています。その意味では大きな社会貢献ができていると感じています。最終的に医師の役割は、患者の救命や求められていることに応えていくことにあります。今回のように一定の成果を上げたことは、救急医の自信につながっていくと思います。一方で、コロナ患者に対応することで、ほかの救急患者に満足に対応できていない現実もありますので、振り返りつつ、より良い医療を提供できるようにしていきたいと考えています。

販売名 : 全身用X線CT診断装置 Supria
医療機器認証番号 : 225ABBZX00127000

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Supria およびSupria Grande は、富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。
左から、石下福威(富士フイルムヘルスケア株式会社)、筆者(富士フイルムヘルスケア株式会社)、溝端先生(ソーシャルディスタンスに注意しながら撮影しました)
左から、石下福威(富士フイルムヘルスケア株式会社)、筆者(富士フイルムヘルスケア株式会社)、溝端先生
(ソーシャルディスタンスに注意しながら撮影しました)