納入事例乳房超音波における乳腺エラストグラフィとeFocusingの導入メリット株式会社日立製作所 日立総合病院

聞き手:石田友子、松尾和也富士フイルムヘルスケア株式会社

概要

株式会社日立製作所 日立総合病院 乳腺甲状腺外科 主任医長の伊藤吾子先生は乳腺外科医として地域の乳癌診療を担うとともに乳房超音波診断の最前線でご活躍されています。

以前、Webセミナーでご講演いただいた内容をもとにエラストグラフィの有用性やARIETTAシリーズの最新機能eFocusingが乳腺領域でどのように活用できるのか、今後の展望も含めて取材しました。

病院概略:立地、規模、ネットワーク

日立総合病院は、茨城県日立市にあり、現在の病床数は635床【一般:631床(うち茨城県地域がんセンター 100床)、感染:4床】 となります。

当院は、「地域医療支援病院」(高度専門医療および救急医療)としての役割を担っており、紹介患者さんの受け入れ、医療機器の共同使用などを積極的に推進しております。

病院外観
病院外観

病院設立について:目的、理念、経緯

病院の理念について教えてください。

私たちは、患者さんの立場に立った「温かい医療」を提供する「温かい病院」をめざして、患者さん中心の、安全で質の高い医療を提供し続けることにより、地域社会に貢献することを理念としております。

病院の特徴について教えてください。

株式会社日立製作所の企業立病院として1938年1月に開院し、以来80年以上にわたり、「医療を通じて地域社会に貢献する」という基本方針のもと、茨城県北部地区の中核病院として発展してまいりました。

地域がんセンター・救命救急センター(三次救急指定病院)を有し、肝疾患診療連携拠点病院・災害拠点病院の指定も受け、高度急性期・急性期疾患の診療を中心として、茨城県北二次医療圏(日立市・高萩市・北茨城市)の地域のみなさまに、良質で安全な医療を提供できるよう、日々診療に取り組んでいます。近年、急性期のみならず、回復期・緩和ケアまで含めた医療を一体的に提供できる体制の構築にも努めております。

乳腺甲状腺外科について教えてください。

茨城県北部はおおむね40万人の医療圏なのですが、その中で乳癌学会認定施設、内分泌外科学会認定施設は当院だけです。

当科では専門医を中心として、常勤医師4名、非常勤医師1名で乳癌検診から、乳腺、甲状腺疾患の画像診断、針生検、手術や薬物治療、終末期の緩和医療までを切れ目なく行っています。

2020年の外来患者数は12,485名(一日平均51名)、外来初診患者数は540名(月平均45名)でした。手術数は288件(乳腺:241件、甲状腺:47件)、乳癌に対する外来化学療法は1,334件行いました。

乳腺甲状腺外科<br>後列 左 周山先生 右 和栗先生<br>前列 左 八代先生 中央 伊藤先生 右 三島先生
乳腺甲状腺外科
後列 左 周山先生 右 和栗先生
前列 左 八代先生 中央 伊藤先生 右 三島先生

コロナ禍で診療に変化はありましたか。

病院全体では受診控えによる外来患者数の減少や健診受診者数の減少はありましたし、軽症者のみならず重症のコロナ患者さんを受け入れるための専用病棟開設に伴い一般病床の削減もありました。ただし、茨城県北部では都会に比べて感染者が少なかったこともあり、手術制限などは行わずに済みました。

当科は、以前から外来にハイエンドの超音波機器を設置し、乳腺疾患、甲状腺疾患とも、受診当日に超音波検査を行い、結果に応じて針生検や穿刺吸引細胞診まで施行していました。

診断確定までの期間の短縮や、受診回数を少なくすることで、患者さんの精神的、時間的負担を減らすために行っていたことですが、結果的にコロナ禍でも診療スタイルを大きく変えずに済みました。

特長:乳房超音波のこと

外来ではHI VISION Ascendus、超音波検査室ではARIETTA850が導入されています。乳房超音波検査で意識されていることを教えてください。

まず、先入観なく両側乳房全体を観察するようにしています。例えば、右乳房のしこりを主訴に受診した患者さんでも自覚部位は嚢胞で、左側に乳癌が見つかることもありますので。

スクリーニングでは乳房を探触子で軽く圧迫し、まっすぐな胸筋の上に乳腺が均一にのっている画像を保ちながら乳房全体をひと通り観察します。この際に病変の有無や、病変が単発か複数かを確認します。

次に、診断に有用な「説得力のある静止画」、つまり乳癌は乳癌らしい、良性腫瘤は良性らしい、嚢胞は嚢胞らしいBモードの静止画を保存することを心がけています。Bモードだけで診断がつくものも多くありますので、当たり前のようですがとても重要です。

伊藤先生
伊藤先生

Bモードだけでは診断が難しい場合、カラードプラやエラストグラフィを加える有用性はなんでしょうか。

Bモードで得られる情報は形態情報と質的情報です。それだけでは良悪性の判断が難しい場合に血流や硬さの情報を加えることで悪性または良性寄りに考えることができます。 悪性を疑う病変に対しては針生検を行い確実に診断しますし、良性と判断できれば細胞診や針生検などの侵襲的処置を省略することが可能となります。検診では要精査としなくてもよいという判断ができるものもあります。

実際に「検診施設」でエラストグラフィを導入したことで要精検率低減や乳癌発見率が向上した事例を教えていただけますか。

当院に併設している「日立総合健診センター」では任意型検診として年間約4000人の乳癌検診を行っています。マンモグラフィと超音波を併用しており、いずれも全て女性技師が検査を行っています。2006年からは必要な症例にカラードプラ、エラストグラフィを追加しています。2005年の要精検率は5.1%、乳癌発見率は0.26%でしたが、2006年は要精検率4.0%、乳癌発見率は0.62%でした。以降も要精検率は徐々に低下し、2011年以降は2%以下を保ちつつ、乳癌発見率は0.3-0.4%台でした。国の指針では乳癌検診における要精検率の許容値は11%以下、がん発見率の許容値は0.23%以上となっていますのでかなり良い成績だと自負しております。もちろんこれはエラストグラフィだけでなく、超音波を行う技師のトレーニングや、マンモグラフィ、超音波とも前回受診時との比較読影を行うなど、技師、医師が一丸となって質の高い乳癌検診を行うための努力をした結果です。

総受診者数(人) 要精検率 (%) 乳癌発見率 (%)
2005年 3,504 5.1 0.26
2006年 2,728 4.0 0.62
2011年 3,445 2.0 0.38
2015年 4,278 1.8 0.44
2020年 4,080 1.7 0.47

日立総合健診センターにおける乳癌検診推移

Bモードで迷うが血流と硬さの情報を追加することで迷わず判断できた症例を教えてください。

1例目は54歳女性です。Bモードでは内部均質な分葉形の腫瘤で、線維腺腫と粘液癌とで迷いましたが、カラードプラで血流は乏しくエラストグラフィで非常に柔らかいということがわかりました。血流と硬さの情報を加えると迷わず良性と判断できます。

2例目は35歳女性です。Bモードでは年齢も考慮し線維腺腫を第一に考えました。しかし、カラードプラで血流豊富、エラストグラフィでは腫瘤に一致してひずみの低下を認める(硬い)スコア4を示しました。悪性を疑い針生検を行ったところ浸潤性乳管癌と診断されました。

良性病変のふるい落とし、悪性病変の拾い上げに有用となることがあります。

1例目
1例目
2例目
2例目

説得力がありますね。硬さ情報のエラストグラフィ機能の導入は受診者と医療従事者側両方にメリットがありますね。

はい、医療者にとっては診断の確信度が得られることが最大のメリットです。受診者にとっては、超音波検査で明らかに良性と診断されれば針生検などが不要となり、痛い思いをしなくて済みますし、結果が出るまでの不安も軽減できます。

ただし、検査手技や結果の解釈を間違えると偽陰性や偽陽性の原因となりますので注意が必要です。

血流や硬さを見るときの検査手技で注意されているところを教えてください。

カラードプラやエラストグラフィを有用なものにするためには、適切な検査手技で撮像することが重要です。いずれの検査時にも探触子で乳房を強く押さえつけないことがポイントです。特にエラストグラフィの検査時にはまず、病変を画面の中央に描出し、描出断面をずらさないようにまっすぐ探触子を浮かせてくるときれいな画像が撮影できると思います。

血流や硬さの評価方法について教えてください。

血流の評価項目としては、「血流の豊富さ(vascularity)」と「血流形態・分布(良性パターン・悪性パターン)」の2つから良悪性を判断しますが、単純に血流が豊富だから悪性、乏しいから良性という訳ではありません。

例えば浸潤性乳管癌(硬性型)や浸潤性小葉癌など細胞成分よりも線維成分が多いものは血流が乏しいことが多いですし、反対に線維腺腫でも血流が豊富なものがあります。その際には血流の形態、分布を参考に判断します。

硬さについては5段階のつくば弾性スコアや、病変と脂肪のひずみの比をとるFat-lesion ratio(FLR)で評価します。

「血流豊富だが、柔らかいもの」、または「血流乏しいが、硬いもの」の場合、血流と硬さ、どちらを重視するべきでしょうか。

非腫瘤性病変では、柔らかくても血流豊富であれば非浸潤癌を考えます。また、血流は乏しいが、硬い腫瘤に関しては、形態(境界明瞭平滑、円形腫瘤)と血流で明らかな濃縮嚢胞と判断できるものを除いては針生検を考慮しましょう。

血流や硬さ情報を加えても診断が難しい症例について教えてください。

乳管内乳頭腫は血流豊富かつ、硬さもあり偽陽性となりやすい病変です。また、硬化性腺症はBモードで不整形腫瘤、血流は乏しいものの、硬さがあり浸潤性乳管癌(硬性型)と非常によく似ています。いずれの病変も診断には針生検が必要です。

エラストグラフィを使うと通常より検査時間がかかるのではないかとお考えの方へアドバイスがあればお願いいたします。

私は20年近くエラストグラフィを使用しておりますので、検査手技、診断に適した静止画の選択、つくば弾性スコアの判定に慣れています。ボタンを押して数秒探触子を動かすだけで、判定できますので、負担にはなりません。

初心者の方にはまず、「探触子を浮かせる」という基本的な検査手技を習得することが重要だと考えます。そのうえでARIETTAシリーズに搭載されているAFS(Auto Frame Selection)機能により、装置が選択する質の良い静止画を用いて判断することもできます。また、今まで手動で設定をしていたFLR計測についても、ワンタッチで自動ROI設定してくれるASR(Assist Strain Ratio)に進化しています。この機能は計測時間の短縮および判断に客観性を持たせられる可能性があります。

つくば弾性スコアとFLR(Fat Lesion Ratio)の使い分けについて教えてください。

エラストグラフィに慣れた検査者が判断する場合、主観的なパターン分類であるつくば弾性スコアが速いと思います。良悪性のカットオフはスコア3と4の間となっています。一方、半定量評価であるFLRはスコア2-4の判断に迷う場合や、客観性を持たせたい場合に有用なことがあります。良悪性のカットオフは4.3-5.0以上です。

ただし、どちらも同じ画像を用いているので良悪性の判断は大きく変わらないと思います。

検査室に納入のARIETTA850のeFocusing(全フォーカス)についてはどのような有用性を感じられていますか。

全フォーカスによりフォーカスを合わせることなく、浅部から深部まで鮮明で高いフレームレートの画像が得られるため、特に厚みのある乳腺や腋窩リンパ節の観察など、病変の存在位置が事前に予測できない時に有用です。 

フォーカスを合わせるというひと手間省けるだけですが使い慣れると、とても楽ですね。またボタン1つでeFocusingとsingle focusの切り替えが行えるので薄い乳腺の精査時には使いわけています。

eFocusingはスクリーニング検査が多い検診や検査室に有用な機能だと思います。

eFocusing:新開発した新しい送受信技術です。S/Nの改善とフォーカス依存性の低減を実現しました。被検者依存が少なく、浅部から深部まで均一な画像を得ることができます。
eFocusing:新開発した新しい送受信技術です。
S/Nの改善とフォーカス依存性の低減を実現しました。
被検者依存が少なく、浅部から深部まで均一な画像を得ることができます。
eFocusing ON
eFocusing ON
eFocusing OFF
eFocusing OFF
超音波検査室左から土井技師、奥山技師、伊藤先生、鈴木技師、助川技師、渡邊技師
超音波検査室
左から土井技師、奥山技師、伊藤先生、鈴木技師、助川技師、渡邊技師
検診センター左から菊池技師、新嶋技師、森川技師、荒金技師、川﨑技師、鴨志田技師
検診センター
左から菊池技師、新嶋技師、森川技師、荒金技師、川﨑技師、鴨志田技師

今後の展望:将来の医療計画、超音波について

今後の展望についてお聞かせください。

病院、当科としては地域の患者さんのために、引き続き、高い精度の乳癌検診、質の高い乳癌診療を行っていきたいと思っております。

超音波については、装置の改良とそれを扱う人の育成により発展すると考えています。

私個人としては、茨城県内のみならず全国の技師や若手医師に向けて、患者さんや検診受診者にとって有益となる乳房超音波検査の教育を行っていくことも今後の目標としています。