納入事例「乳房超音波検査におけるAI技術を活用した強調表示機能の有用性」
eScreeningによるワークフローの変化~医療法人豊田会 刈谷豊田総合病院

聞き手:稲垣 知美、菅谷 宏美富士フイルムヘルスケア株式会社

概要

刈谷豊田総合病院は地域の中核病院として、保健・医療・福祉分野で温かい思いを込めた質の高いサービスを提供する急性期病院です。今回、AI技術※1を活用して開発した「DeepInsight※2*1技術」を搭載したARIETTA*2850 DeepInsightを放射線技術科 超音波室に導入いただきました。乳腺エコーの新たなツールとして追加された「eScreening」の使用感、そして今後の超音波検査をはじめとする画像診断のめざす姿について放射線技術科の方々にお話を伺いました。

病院の概略:立地、規模、理念

ご施設の設立や診療に関わる事柄についておきかせください。

医療法人豊田会は、トヨタグループ8社ならびに刈谷市・高浜市によって運営され、「保健・医療・福祉分野で社会に貢献します」を理念としています。当院は、愛知県刈谷市に位置し、地域への社会貢献をめざして1963年に200床で開院しました。現在は704床を有し、先進的な医療機器を完備して、正確な診断、救急医療、がんの治療などの高度な医療を提供し、地域の中核病院に成長しました。診療圏は、刈谷市・高浜市・知立市・東浦町・大府市および、安城市・豊田市の一部です。

救命救急センター、災害拠点病院(地域中核災害医療センター)に指定され、災害の多い昨今、災害時医療に対応できる体制作りを行っています。また、愛知県がん診療拠点病院に指定され、がんに対して腹腔鏡や胸腔鏡、手術支援ロボット(ダヴィンチ*3)による低侵襲手術を積極的に行っています。そして、30床を有する化学療法センターと高機能な放射線治療専用機を有し、患者の皆さまに適したがん治療に取り組んでいます。がん治療に限らず、各分野に精通した多くの専門のメディカルスタッフによるチーム医療を実践しており、患者の皆さまが安心して安全で最適な治療を受けられるよう心掛けています。

放射線技術科の特徴

放射線技術科の特徴を教えてください。

患者第一、品質向上、チームワーク、経営改善の視点を大切にしています。「どのようなビジョン(目的・目標)を実現しようとしているのか、患者の皆さまに対してどのような貢献をしようとしているのか」をスタッフ一人ひとりが理解できるように業務に取り組んでいます(診療放射線技師は2022年4月1日現在、65名在籍)。また、ゆるがないバランスの取れた組織構築をめざしており、仕事を楽しむことができ、スタッフがやりがいを感じる職場環境づくりを基盤に一流をめざす一方で、技術のみの人材ではなく一人の人間(医療人)を育てることをスローガンにしています。

いかなる環境変化にも組織として柔軟に対応することを心掛けています。そのために、日常業務で3C(チェンジ・チャレンジ・クリエイティブ)の姿勢を推奨し、価値観の整合と価値共創(組織と患者の皆さまとの相互作用を通じて、ともに価値を創造していく)を実現させる行動指針を掲げています。これらの考え方は、時代に応じて表現は変わっても本質は不変であり生涯成長させていくものだと思っています。科としての明確なビジョンを掲げているため、スタッフのモチベーションが高く、同じベクトルで行動できることが最大の特徴です。

また、タスクシフトにも注力しており、研修医に対してエコー検査の教育に取組んでいます。現在は救急外来にソノグラファーを常駐させOJTを行っています。外来後のレビューを重要視しており、救急においてエコーの有用であった症例をレクチャーしたり、ソノグラファーと研修医と救急医の三者で一緒に進んでいくようなスタイルを取っています。

河野部長
河野部長

超音波室の運用面で重要と考えられていることはどのようなことでしょうか。

ステークホルダーに対して一つ一つ信用を貯めていくことです。例えば、検査依頼が来て初めて患者さんへの貢献がスタートします。検査依頼をいただくには、医師が診察時に「まずエコー」と思っていただけるような関係の構築が重要だと思います。そのためには、説得力のあるキー画像やレポートの提供が不可欠です。これに加え、医師との対話機会をこちらから作っていく姿勢を大切にしています。新しい文献が出れば超音波が有用な症例を供覧すること、新機能の説明を通して診療でどう使えるのかを一緒に協議することなど、対話でしかできないことがあります。いわば、顔の見える関係構築です。

また、いつこのような機会が来ても良いように、日頃から最新情報の入手に努め、スタッフがモチベーションを保てるように同僚間で支援し合う風土を大切にしています。

前田副部長
前田副部長

乳腺領域におけるARIETTA 850 DeepInsightの使用感や臨床的価値について

これまで、病変観察や描出においてご苦労されていたことがあれば教えてください。

乳腺の状態によっては深部エコーの減衰が強く、内部や後方の評価がわかりにくいことがありました。そのため、症例に合わせ適宜画質調整が必要な場合もあり、検査が煩雑となることもありました。また、内部エコーの変化に乏しい症例では正常と異常の鑑別に悩むことも多くありました。

石黒技師
石黒技師

ご苦労していた点に対して、AI技術を活用したノイズ除去技術やフルフォーカスにより効果があった症例についてご解説ください。

ノイズ除去技術やフルフォーカスにより、従来の装置と比較して格段に深部感度が向上しています。分解能向上により、病変部の内部エコーや後方を詳細に評価することができ、病変の鑑別に役立っています。従来の装置では、内部の性状が見えづらく腫瘤か乳腺内脂肪で迷うような症例も、ARIETTA*2850 DeepInsight*1ではしっかりと評価・鑑別できるケースが多くなり、それに伴い生検も適切化されました。最近では、腋窩深部リンパ節の視認性向上に伴ってリンパ節門を明瞭に観察することができ、生検不要と判断できた事例を経験しました。また、フルフォーカスにより、観察時のフォーカス位置を気にすることなく検査に集中することができ、検査効率化にも繋がっています。

非浸潤性乳管癌(DCIS)

eScreening機能によるワークフローの変化について

乳腺領域の検査で負担となるのはどのようなことでしょうか?

乳腺検査に従事するスタッフは複数名在籍しており、経験年数もさまざまです。健診から精査まで広く関わっているため、再現性のある検査を維持するために検者間誤差は課題の一つです。また、乳腺検査は非常にデリケートな検査であり、正常画像の見え方も個人差が大きい検査です。技師の見落とし一つで取り返しがつかないこともあるため、初学者の教育については気を遣います。

eScreening機能を使用することで、検査フローにどのような変化があったか教えてください。
また、有用であったシーンや症例について教えてください。

eScreeningでは学習された特徴量を認識し、リアルタイムにエコー画像上にマークを表示し病変の可能性を教えてくれますが、熟練者と初学者では使い方のポイントが異なります。熟練者が使用した場合に、eScreeningが反応し技師も病変があると判断した場合、より確信をもって病変があると判断ができます。次に、技師は病変があると判断したものの、eScreeningが反応しなかった場合には、過大評価の可能性を念頭におきながら再度細かく観察します。

病変によっては輝度特徴量が捉えにくいものもあるため、eScreening MapやeScreening Graghを確認します。詳細な観察で根拠のある所見があれば有所見として判断します。一方で、eScreeningは反応しているけれど、技師は病変ではないと判断した場合には、eScreeningが反応した根拠を、検査者が納得できるように多方向から観察します。例えば、クーパー靱帯の後方エコー減衰や乳腺内脂肪など正常組織であっても、エコーの描出断面によっては輝度特徴量があると判断されてしまうことがありますが、そのような特徴を知った上で観察すると不要な拾い上げを防ぐことができます。それらを確認した上でも恒常的に反応する場合は、病変の可能性がないか検討します。

熟練者はもちろんのこと特に初学者が使用した場合に、検査者とeScreeningの判断が乖離した時が重要なポイントであり、再度入念に観察することで見落としを防ぐツールとして有効であると考えています。

当院では、熟練者が検査を行う際は一通り観察をしたのち、最後にダブルチェックとしてeScreeningを活用しています。

線維腺腫

今後の期待

最後に、今後の展望や画像診断分野・超音波診断装置に期待することを教えてください。

画像診断分野・超音波診断装置には、ソフト面の充実を期待します。具体的には、AI(Artificial Intelligence)、Deep Learning、アプリケーションなどを活用して施設の特徴に応じた支援や施設固有の課題に対してきめ細かな対策に繋がるオーダーメイド型の機能の開発です。

今後の展望として、昨今、医療DX(Digital Transformation)やスマートホスピタルなど新しい切り口が出てきました。それら最先端の動向に対してタイムリーに情報収集することは必要ですが、現実を直視して目の前の患者さんに最善を尽くし、地域に望まれる医療は何か、自分たちの役割を考えながら事業展開を進めていきます。

最後に、患者の皆さま、そして関わる職員にありがとうと言われる仕事をし続けること、皆が納得しながら、成長ややりがいを感じられる職場づくりをめざしていきます。

超音波室の皆さん 左から 古本技師、石黒技師、髙井技師、前田副部長
超音波室の皆さん
左から 古本技師、石黒技師、髙井技師、前田副部長
取材時はマスクを着用しています。
※1
AI技術のひとつである機械学習を用いて開発・設計したものです。
実装後に自動的に装置の性能・精度は変化することはありません。
※2
AI技術のひとつであるDeep Learningを用いて開発・設計したものです。
実装後に自動的に装置の性能・精度は変化することはありません。

販売名:超音波診断装置 ALOKA*4 ARIETTA 850
医療機器認証番号:228ABBZX00147000

ALOKA ARIETTA 850 は ARIETTA 850 DeepInsight と呼称します。
*1
DeepInsight *2 ARIETTA は富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。
*3
ダヴィンチはIntuitive Surgical Operations, Inc.の登録商標です。
*4
ALOKAは日本レイテック株式会社の登録商標です。
FUJIFILM、およびFUJIFILMロゴは、富士フイルム株式会社の登録商標または商標です。