逐次再構成法を用いたMR高速撮像技術High-Speed MR Imaging Technology Using Iterative Process

  • 白猪 亨Shirai Toru
  • 庄司 博樹Shoji Hiroki
  • 鎌田 康弘Kamada Yasuhiro
  • 瀧澤 将宏Takizawa Masahiro
  • 尾藤 良孝Bito Yoshitaka
  • 越智 久晃Ochi Hisaaki

富士フイルムヘルスケア株式会社

一般的なMRI検査はX線CT検査よりも時間が長いことから、撮像時間の短縮が望まれている。そのため、MR高速撮像法は非常に重要な技術の一つである。われわれは、画質を維持しながら撮像時間を短縮できる高速撮像法として、信号のアンダーサンプリングと繰り返し演算処理(IP:Iterative Process)を組み合わせた新技術「IP-RAPID」を開発した。IP-RAPIDは、さまざまな磁場強度の装置で、さまざまな撮像部位、さまざまなコントラストの画像に適用できることから、多くの臨床場面に貢献できる技術である。本稿では、IP-RAPIDの特長と画像適用例を紹介する。

Since a general MRI examination takes longer than an X-ray CT examination, it is desired to shorten the scan time. A high-speed MR imaging method for shortening the scan time is one of the most important technologies. For shorten the scan time while maintaining image quality, we have developed a new high-speed imaging technology "IP-RAPID" that combines signal undersample and iterative process (IP: Iterative Process). IP-RAPID is the new technology that can contribute to many clinical situations because it can be applied to images of various magnetic field strengths, various body parts, and various contrasts. This paper shows the features of "IP-RAPID" and examples of applying the technology.

Key Word

  • Magnetic Resonance Imaging
  • Parallel Imaging
  • Iterative Process
  • High-speed
  • Denoising

目次

1 はじめに

MRIは形態情報のほか、血流や代謝機能など、さまざまな情報が取得できるため画像診断分野では不可欠な診断装置となっている。しかし、MRI検査はX線CT検査などに比べて検査時間に占める撮像時間が長いことから、撮像時間の短縮が望まれている。そのため、撮像時間を短縮するための高速撮像法は非常に重要な技術である。MRIにおける高速撮像法には、エコープラナー法(EPI)1)や高速スピンエコー法(FSE)2)のように計測空間(k空間)を高速に走査する手法と、ハーフフーリエ法3)やパラレルイメージング法4)、圧縮センシング法 5)のように、k空間上の少数の点を計測し、未計測点を信号処理で復元する手法(アンダーサンプリング再構成法)の二つに大別される。前者の手法は、静磁場不均一や横緩和時間(T2)減衰などの影響を受けやすく、得られる画像コントラストが制限される。一方、後者の手法は、撮像シーケンスに依存せずに撮像時間を短縮できる利点を有する。

アンダーサンプリング再構成法の代表例であるパラレルイメージング法は、複数の受信コイルを用いて、k空間上の信号を特定の間隔でアンダーサンプリングし、受信コイル感度情報を用いて画像再構成することで、撮像時間を短縮できる手法である。パラレルイメージング画像の信号対雑音比(SNR)は、撮像時間の短縮率(倍速数)であるRファクタの平方根と、受信コイル感度に応じて空間的に変化するノイズの増幅率であるgファクタにそれぞれ反比例する4)。したがって、パラレルイメージング法は撮像時間を短縮するほど画質が低下するという課題があった。

そこでわれわれは、新たな高速撮像技術として「IP-RAPID」を開発した。IP-RAPIDは、さまざまな処理を組み合わせることで画質の低下なく撮像時間を短縮することができる技術である。以降ではその概要について説明する。

2 IP-RAPIDの概要

IP-RAPIDは信号のアンダーサンプリングと繰り返し演算処理(IP:Iterative Process)を組み合わせることで、画質の低下なく、撮像時間を短縮できる技術である(図1)。
IP-RAPIDには以下の特長がある。

  1. スパース化変換の適用
    「スパース」とは、「信号の多くが 0、あるいは0に近い」ということを表す。IP-RAPIDでは、離散ウェーブレット変換などのスパース化変換を用いることで、信号成分とノイズ成分を分離しやすくできる。そのため、アンダーサンプリングによって生じる偽像やノイズを効果的に低減することができる。
  2. gファクタに応じたノイズ除去強度の制御
    従来のパラレルイメージング法ではgファクタの分布に応じてノイズが増加する領域が生じ、画質が低下する。一方、IP-RAPIDではgファクタに応じてノイズ除去の重みを変えることでノイズ量が多い領域のノイズを効果的に低減することができる。
  3. 過剰なノイズ除去の防止
    IP-RAPIDでは、計測データからノイズ量を高精度に推定して、そのノイズ量に応じてノイズ除去の強度を制御している。これにより、撮像視野(FOV)やマトリクスなどの撮像条件でSNRが変化してもノイズのみを安定に低減している。そのため、構造の欠損が少なく、効果的にSNRを向上することができる。
  4. 演算時間の短縮
    IP-RAPIDでは繰り返し演算処理によって偽像やノイズを低減している。そのため、画像再構成時間の延長が懸念されるが、GPUの搭載により画像再構成時間を高速化している。

以上の特長技術を組み合わせることにより、IP-RAPIDは、SNRの低下によって従来パラレルイメージング法では実現できなかった高倍速化が期待でき、撮像時間の短縮につながると考えられる。

図1 「IP-RAPID」の概要
図1 「IP-RAPID」の概要

3 数値ファントムおよびヒト画像によるIP-RAPIDの評価結果

IP-RAPIDの効果を確認するために、数値ファントムおよびヒト頭部画像を用いた評価を実施した6)。図2にShepp-logan数値ファントムによる評価結果を示す。図2上段は受信コイル感度分布から算出される理論的なgファクタマップ、図2下段は従来パラレルイメージング画像に対するIP-RAPID画像のSNR増加率マップをそれぞれ表す。図2上段の白矢印に示すように、倍速数Rを増やすにつれて、gファクタの増大する領域が生じる。したがって、従来パラレルイメージング画像はこのgファクタに反比例してSNRが低下する。一方、図2下段に示すように、IP-RAPIDはRAPIDに対して、画像全体のSNRは倍速数Rによらず1.90倍程度改善していることがわかる。

次に、ヒト頭部におけるIP-RAPIDの効果を確認した6)。本検討で用いた画像は、3T MRIで撮像したT2強調画像で、撮像時間は2分である。この画像を後処理でアンダーサンプリングしてR = 2倍、2.5倍、3倍速相当の画像を算出し、従来パラレルイメージング画像とIP-RAPID画像をそれぞれ算出した。図3にヒト頭部画像の結果を示す。図3(a)(b)はフルサンプリング画像,(c)~(e)は倍速数R = 2倍、2.5倍、3倍の従来RAPID画像、(f)~(h)は倍速数R = 2倍、2.5倍、3倍のIP-RAPID画像をそれぞれ示す。なお、図3(b)~(h)は、図3(a)の橙枠で示した領域を拡大した図をそれぞれ表す。図3(b)~(h)に示すように、IP-RAPIDを適用することにより、従来パラレルイメージング法に比べて、視覚的に構造の欠損などの画質低下なくSNRが増加していることわかる。

図2 数値ファントムによるIP-RAPIDのSNR改善効果の評価結果6)数値ファントムにおいて、IP-RAPID適用することでIP-RAPID非適用時に比べてSNRが1.9倍程度向上していることがわかる。
図2 数値ファントムによるIP-RAPIDのSNR改善効果の評価結果6)
数値ファントムにおいて、IP-RAPID適用することでIP-RAPID非適用時に比べてSNRが1.9倍程度向上していることがわかる。
図3 ヒト頭部T2WIによるIP-RAPID適用有無の比較(磁場強度3T 超電導MRI)6)IP-RAPIDを適用することにより、IP-RAPID非適用時に比べて視覚的にSNRが増加している。
図3 ヒト頭部T2WIによるIP-RAPID適用有無の比較(磁場強度3T 超電導MRI)6)
IP-RAPIDを適用することにより、IP-RAPID非適用時に比べて視覚的にSNRが増加している。

4 IP-RAPIDの適用例

IP-RAPIDの撮像時間短縮効果を確認するために、1.5T MRI装置で撮像した頭部画像にIP-RAPIDを適用した。図4に、IP-RAPID非適用時のルーチンプロトコルと、IP-RAPIDを適用して撮像時間を短縮したプロトコルで撮像した画像をそれぞれ示す。図4に示すように、IP-RAPIDを適用することで、画質の低下なくプロトコル全体の撮像時間が半減していることがわかる。また、IP-RAPIDは、FSE法だけでなく、スピンエコー法(SE)やグラディエントエコー法(GrE)のほか、拡散強調画像(DWI)、3D TOF-MRA(Time-of-Flight MR Angiography)などさまざまな撮像シーケンスに適用でき、撮像時間の短縮に効果があることがわかる。

図5に、1.5T MRIで撮像した頭部以外の部位の画像を示す。IP-RAPIDは、MRI検査で撮像されるさまざまな部位の画像にも適用できることから、多くの検査に対して撮像時間の短縮に貢献できる。

さらに、IP-RAPIDは、オープン型の永久磁石MRIにも適用できる。図6に、0.4T 永久磁石MRIにて撮像した代表的な画像種について、IP-RAPID適用有無を比較した画像をそれぞれ示す。図6に示すように、IP-RAPIDを適用することで、0.4T 永久磁石MRIにおいても画質の低下なく撮像時間が短縮できていることがわかる。

図4 頭部ルーチンプロトコルにおけるIP-RAPID有無の比較(磁場強度1.5T 超電導MRI)IP-RAPIDを適用することにより、撮像時間が半分以下となっても、IP-RAPID非適用時と同程度の画質が得られている。
図4 頭部ルーチンプロトコルにおけるIP-RAPID有無の比較(磁場強度1.5T 超電導MRI)
IP-RAPIDを適用することにより、撮像時間が半分以下となっても、IP-RAPID非適用時と同程度の画質が得られている。
図5 頭部以外の部位にIP-RAPIDを適用した画像(磁場強度1.5T 超電導MRI)頭部だけでなく、さまざまな部位においても画質低下なく撮像時間を短縮できる。
図5 頭部以外の部位にIP-RAPIDを適用した画像(磁場強度1.5T 超電導MRI)
頭部だけでなく、さまざまな部位においても画質低下なく撮像時間を短縮できる
図6 磁場強度0.4 T永久磁石MRIにおけるIP-RAPID有無の比較 低磁場MRIにおいてもIP-RAPIDを適用することで画質低下なく撮像時間を短縮できる。
図6 磁場強度0.4 T永久磁石MRIにおけるIP-RAPID有無の比較
低磁場MRIにおいてもIP-RAPIDを適用することで画質低下なく撮像時間を短縮できる。

5 結語

IP-RAPIDは、磁場強度の異なる装置で、さまざまな撮像部位、さまざまなコントラストの画像に適用できることから、撮像時間の短縮、ひいてはMRI検査時間の短縮に大きく貢献できる。また、撮像時間を短縮できる時間を有効活用することで、従来と同一時間で空間分解能の向上やスライス枚数の増加が可能になるなど、撮像条件の自由度が上がり、画質向上にも貢献することができる。さらに、撮像シーケンスに依存しないため、静音化シーケンスを適用した画像にも使用できるというメリットがある。このようにIP-RAPIDは、検査時間の短縮のみならず、検査内容の充実に対しても効果があることから、患者負担の軽減や手厚い医療に貢献できる技術である。

※ FatSepは富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。

参考文献

1)
Mansfield P. :Multi-planar Imaging Formation using NMR Spin Echoes. Journal of Physics C10: L55-58, 1977.
2)
Henning J, et al. : RARE Imaging: A Fast Imaging Method for Clinical MR. Magnetic Resonance in Medicine 3:832, 1986
3)
Margosian P, et al. :Faster MR imaging-imaging with half the data. SMRM Conference Abstracts 1024-1025, 1985.
4)
Pruessmann KP, et al. :SENSE: Sensitivity Encoding for Fast MRI. Magnetic Resonance in Medicine 42:952-962, 1999.
5)
Donoho DL. :Compressed Sensing. IEEE Trans Inf Theory 52:1289-1306, 2006.
6)
白猪亨, ほか :逐次ノイズ除去法を用いたパラレルイメージング画像の高画質化.日本放射線技術学会総会学術大会, 74:O431, 2018.