新型リニアプローブL35の開発Development of new linear probe L35

  • 吉村 一穂KAZUHO YOSHIMURA
  • 深田 慎MAKOTO FUKADA
  • 岡崎 英樹HIDEKI OKAZAKI

富士フイルムヘルスケア株式会社

近年、腹部エコー診断において、コンベックスプローブで捉えた疾患を精査するためにリニアプローブを併用する機会が増えている。このような機会で用いるリニアプローブにはコンベックスプローブで鮮明に観察できなかった肝表面、膵臓、消化管等に存在する微かな変化を捉えることが期待されており、高い空間分解能とコントラスト分解能の両立が求められる。また、一般的にリニアプローブは視野が狭く、深部感度が低いため、胆嚢や肝臓等の臓器全体を捉えられないという課題があった。そこで、高い空間分解能とコントラスト分解能を有し、課題であった視野の狭さ、深部感度不足を改善した新型リニアプローブ(L35)を開発したので報告する。

Key Word

  • Spatial Resolution
  • Contrast Resolution
  • Single Crystal
  • Matrix Structure

目次

1 はじめに

近年、腹部エコーにおいて、コンベックスプローブによる疾患の存在を診断した後、リニアプローブにて精査する機会が増えている。このような機会で用いるリニアプローブにはコンベックスプローブで鮮明に観察できなかった肝表面における腫瘤の識別や、膵管や胆嚢、消化管に代表されるような管腔壁の構造を観察できる性能が求められる。このように、消化器系の診断においては、さまざまな部位の微かな変化を捉える‟視認性”が重要となる。‟視認性”とは、正常組織と疾患の識別ができる空間分解能とコントラスト分解能を有することを指し、リニアプローブにはこれらの分解能の両立が求められる。また、一般的にリニアプローブは浅部で空間分解能の高い画像を得るために、高い周波数の振動子を直線状に配列しているが、コンベックスプローブは、低い周波数の振動子を凸状に配列している。このような特徴からリニアプローブはコンベックスプローブに比べて視野が狭く、深部感度不足が課題であり、深部での診断や臓器全体の把握には不向きであった。

今回、新型リニアプローブ(L35)はSingle Crystal採用による広帯域特性、マトリックス構造による浅部から深部までの均一な音場、広い視野幅を実現したことで、消化器系診断に求められる高い‟視認性”と十分な深部感度を得ることができた。プローブ形状においてもグリップの形や先端部の構造を見直すことで操作性の改善を図り、更に診断支援のアプリケーションに対応した。新型リニアプローブ(L35)で採用した各技術について紹介する。

2 画質改善

2.1 Single Crystal

従来型リニアプローブ(L34)は高い空間分解能を有していたが、深部感度に課題があった。特に消化器領域は、対象臓器が比較的深く、周波数減衰が大きいため、低周波においてより高い感度が必要となる。そこで、新型リニアプローブ(L35)では圧電セラミックスよりも高感度、広帯域特性を有するSingle Crystalを振動子に採用することで、従来型リニアプローブ(L34)の持つ高い空間分解能を維持しながら深部感度の向上を図った(図1)。

図1 新型リニアプローブ(L35)と従来型リニアプローブ(L34)の周波数特性
図1 新型リニアプローブ(L35)と
従来型リニアプローブ(L34)の周波数特性

2.2 マトリックス構造(口径切替機能)

浅部から深部まで高いコントラスト分解能を有するためには、広帯域特性だけでなく、スライス分解能向上が必要となる。特に胆嚢、膵管、腸管等の管腔構造を有する場合、スライス分解能が低いと、管腔以外の組織からの反射を拾うため、管腔内のコントラスト分解能が低下する。そこで、新型リニアプローブ(L35)は長軸方向に加え、短軸方向も振動子を分割したマトリックス構造を採用し、深部は大口径、浅部は小口径となる口径切替機能を設けた(図2-a)。管腔構造を模擬したチューブファントムで評価した結果、大口径時は深部、小口径時は浅部において管腔内の音響ノイズが低減し、コントラスト分解能が改善した(図2-b)。この機能により目的の深度においてコントラスト分解能の向上が期待できる。

図2 口径切替機能とその効果
図2 口径切替機能とその効果

2.3 広い視野幅

新型リニアプローブ(L35)は従来型リニアプローブ(L34)に比べて、振動子面積を大きくすることで空間分解能と深部感度の向上を図った。また、視野幅が広くなったことにより胆嚢等の臓器全体が描出できるようになった(図3、図4)。

図3 従来型リニアプローブ(L34)と新型リニアプローブ(L35)の視野幅比較
図3 従来型リニアプローブ(L34)と新型リニアプローブ(L35)の視野幅比較
図4 胆嚢画像
図4 胆嚢画像

2.4 画質改善結果

従来型リニアプローブ(L34)に比べ、新型リニアプローブ(L35)の方が主膵管を鮮明に描出した(図5)。また、胆嚢内の胆石の境界を鮮明に描出した(図6)。上述の画質改善により、高い‟視認性”と十分な深部感度を有していることがわかる。

図5 主膵管(赤矢印)画像
図5 主膵管(赤矢印)画像
図6 胆嚢内の胆石(赤矢印)画像
図6 胆嚢内の胆石(赤矢印)画像

3 操作性改善

新型リニアプローブ(L35)は長時間使用しても疲れず、腹部へ押し込みやすい形状をめざした。グリップ中央を窪ませることで指がフィットし、押し込み時に力が入りやすい構造とした(図7-a)。また、スライス厚を従来型リニアプローブ(L34)よりも薄くしたことで体表の凹凸に対して煽り操作しやすく、意図した画像を容易に描出可能となった(図7-b)。

図7 新型リニアプローブ(L35)の形状
図7 新型リニアプローブ(L35)の形状

4 アプリケーション対応

4.1 多数の穿刺角度に対応したアタッチメント(Verza※1

Verzaは超音波ガイド下穿刺の際に用いるディスポタイプのアタッチメントである(図8-a)。被検者に当てたプローブの位置を変更せずに、穿刺角度の変更が可能であり(5段階(13°/19°/28°/38°/50°)に対応)、レバーの押下により穿刺針のワンタッチリリースも可能である。

新型リニアプローブ(L35)は穿刺の際にVerzaを直接取り付けでき、ブラケットが不要のためブラケット脱着の手間が削減できる(図8-b)。また、ブラケットを介さないので、死角が低減し、より安全な穿刺が期待できる。

図8 穿刺アタッチメント(Verza)
図8 穿刺アタッチメント(Verza)

4.2 マーキングアシスト機能

新型リニアプローブ(L35)では、プローブヘッドの長軸方向に設けた5mm間隔の目盛りに対応するアシストラインをBモード画像上に表示できる(図9)。画像上でプローブヘッドの位置を把握できるので、体表に印をつけるマーキングの補助として使用できる。

図9 アシストライン表示画像
図9 アシストライン表示画像

5 結語

消化器領域で求められる高い空間分解能とコントラスト分解能を有し、一般的なリニアプローブの課題であった視野の狭さと深部感度不足を改善した新型リニアプローブ(L35)を紹介した。本プローブにより、日常診療、診断支援等、より多くの臨床現場で貢献できることを期待する。

販売名:L35 プローブ
医療機器認証番号:302ABBZX00033000
販売名:L34 プローブ
医療機器認証番号:224ABBZX00079000
販売名: シブコVerza ニードルガイド
医療機器認証番号:228AFBZX00071000

※1:
シブコVerzaニードルガイド(品番610-1500)の製造販売業者はセンチュリーメディカル株式会社です。