内視鏡検査・治療に特化したプレミアムデジタルX線透視撮影システム「CUREVISTA Apex」の開発The development of "CUREVISTA Apex", a Premium Digital RF System purely designed for EndoTherapy.

  • 有坂 公孝Kimitaka Arisaka
  • 吉田 安秀Yasuhide Yoshida
  • 北村 昌岳Masataka Kitamura
  • 中村 正Tadashi Nakamura

富士フイルムヘルスケア株式会社

富士フイルムヘルスケアは、2020年4月に販売を開始したデジタルX線透視撮影システムCUREVISTA Openに続き、X線透視下での内視鏡検査・治療に特化したCUREVISTA Apex (キュアビスタ エイペックス) を2022年4月に本邦で発売した。本論文では、CUREVISTA Apexが提供する価値とわたしたちの新たな挑戦について紹介する。

FUJIFILM Healthcare Corporation was launched CUREVISTA Apex in April 2022.
CUREVISTA Apex is specializes in endoscopy and treatment under X-ray fluoroscopy.
This technical paper introduces the value of the CUREVISTA Apex offers and our new challenges.

Key Word

  • Minimally Invasive Treatment
  • Interventional EUS
  • 3WAY ARM
  • VOICE Control
  • Scattered X-ray Map
  • Low Dose

目次

1 はじめに

X線透視撮影システムの歴史は、胃部や注腸検査など消化管領域の検査からはじまった。医療の進歩に伴ってX線透視撮影システムは、整形外科検査、泌尿器検査、胆膵検査などのさまざまな領域において使用されるようになった。近年では、胆膵内視鏡治療のInterventional EUS (Endoscopic Ultrasonography) と総称される胃・十二指腸などの消化管を介して胆膵疾患を治療する手技が普及し、世界的にも増加傾向にある1)。手技が確立したERCP(Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography)とは異なり、Interventional EUSは今もなお進化を続けている手技であることから、安全面は細心の注意が必要と言われている2)

この手技のほとんどがX線透視下で行われることは既知の事実である。そのため被検者のみならず医療従事者の「被ばく」という観点での安全性向上も長年の課題であった。これを受けて、J-RIME (医療被ばく研究情報ネットワーク) は、2015年にJAPAN DRLs (日本の診断参考レベル) を発表した。2020年にはX線CT装置と血管撮影装置の線量管理が法令化された。その流れを受けて、X線透視診断領域での診断参考レベルも改訂され、被ばくや線量管理に対する意識がより一層高まっている。わたしたちは内視鏡検査・治療のさらなる普及と進化のために、これに特化したデジタルX線透視撮影システム CUREVISTA Apex を開発した。本稿では、本商品が提供する3つの価値を報告する。

図1 CUREVISTA Apex
図1 CUREVISTA Apex

2 提供価値1:「たて・よこ・ななめ、診たいアングルに。」

前述のInterventional EUSの安全という観点では、医師のサポートに焦点を当てる。CUREVISTA Apexの開発において、わたしたちは「天板を完全に固定すること」を最優先事項に掲げた。その理由は検査・治療中に被検者を動かしてしまうリスクをなくすことが必須であると考えたからである。

遡ること2007年、当社は透視中に天板を一切スライドさせる必要が無い初代CUREVISTA 3) *1を発表した。その秘密は「2WAY ARM (ツーウェイアーム)」と名付けられたX線管アーム(X線管とFPDから成る映像系機構)が、「たて」と「よこ」に移動する設計方法にあった。今日でも、視野を移動する際にはアームを縦方向に、天板を横方向に動かすのが一般的である。後者の「横方向」への視野移動をERCP (内視鏡的逆行性胆道膵管造影) などIVR (Interventional Radiology) の手技中に行うと、カテーテルなどの処置具が体内に挿入された状態の被検者を動かしてしまうことを意味する。そのため、天板スライドは安全な手技を阻害するリスクになり得るという理由から、2WAY ARMはたくさんのユーザー様から長年高い評価をいただいていた。

診たいアングルを提供する3方向アーム「3WAY ARM (スリーウェイアーム)」

2020年に発売されたCUREVISTA Openはこの2WAY ARMを引き継いだ。そして2022年に誕生したCUREVISTA Apexでは、さらに進化させたX線管アームを商品化することに成功した。そのアームこそが「たて」、「よこ」、そして「ななめ(左右軸方向の斜入)」へとテーブル上を自由自在に動く「3WAY ARM」である。これは、臓器と椎体や臓器とスコープとの重なりを避けたり、分岐する消化管の前後関係が分かりづらかったりするときに、被検者を動かすことなく視野の角度を変える新しい設計だ。

幅広い天板を有しながら装置の奥行きをコンパクトに維持しつつ、左右軸への斜入を新たに加えるという開発は決して平たんな道のりではなかった。そこで私たちはX線管アームの「横移動」とX線管の回転を組み合わせる新しい機械設計に着手した。しかし、これだけではアームのストロークが足りないという困難にも直面した。これを受けて、X線管アームの上部に横方向への駆動軸を新たにもうひとつ実装した。これはわたしたちの中では前代未聞の機械的設計であった。制約や困難の連続であったが、課題を一つずつクリアして、安全面をサポートする設計技術を見出すことができた。

わたしたちが提案する、幅広くて一切スライドしない天板、周辺に医療従事者が立ちやすいデザイン、そして3方向アームの3WAY ARMは低侵襲な内視鏡検査・治療のさらなる発展に貢献すると確信している。

図2 3WAY ARM
図2 3WAY ARM
図3 X線管アームの横移動
図3 X線管アームの横移動

3 提供価値2:「被ばく低減は見ることから。」

近年、散乱X線による医療従事者の「職業被ばく」が増加傾向にある。考えられる要因は、X線透視下での長時間の検査や治療を行うケースが増えていることだ。わたしたちはそれをさらに深く追求した。そして、たどり着いた原因のひとつに「X線は不可視光線である故に、だれが、いつ、どれくらい浴びているかを直観的に理解しづらい」という点に着目した。

目に見えない散乱X線を可視化する線量マップ「IntelliMAP (インテリマップ)」*2

わたしたちは、被検者だけでなく検査や治療に立ち会うすべての医療従事者の被ばく量を減らすきっかけを作りたいと考えた。そして、これをX線診断装置メーカーとしての使命と位置づけ、全社を挙げて散乱X線を可視化する線量マップ「IntelliMAP」を完成させた。IntelliMAPは、実際のX線照射線量と機械的な位置情報をもとに透視撮影台装置の周辺に散乱するX線分布をシミュレーションする。このシミュレーション結果を透視撮影台のモデル上にカラーでマッピングすることで、散乱X線量分布をリアルタイムに直観的に理解できるようになる。このマップを参照しながら、医療従事者は散乱X線量分布の状況を把握することで、被ばく低減策および作業計画に対する再考のきっかけになると考える。

図4 大画面表示のとき
図4 大画面表示のとき

⼤画⾯表⽰のときには、床からマッピングする⾼さを切り替えることができる。例えば、医療従事者の目の水晶体の高さ、胸部、あるいは腹部に近い高さを選べる。ユーザー様がマッピングする高さを切り替えられることで、「職業被ばくへの意識付け」に繋がることを期待している。

図5 マッピング⾼さの切り替え
図5 マッピング⾼さの切り替え

IntelliMAPでは、2つの表示モードと2つの表示サイズから最適な表示方法を用意した。表示モードとしては、透視撮影台周辺の散乱X線量を1検査の累積空気カーマとして表示する「累積モード」とリアルタイムの空気カーマ率を表示する「ライブモード」がある。表示サイズとしては、マップを参照画面に大きく表示(大画面)することもできれば、参照画面のサイドバーに小さく格納して表示(小画面)することもできる。このように、施設や医療従事者の目的やシーンに合わせて使い分けできるように表示方法について検討を重ねた。

図6 累積モード
図6 累積モード
図7 ライブモード
図7 ライブモード
図8 小画面表示のとき
図8 小画面表示のとき

4 提供価値3:「Hello, ボイス。Goodbye, タッチ。」

内視鏡を用いた検査や治療が複雑化し多岐にわたる昨今、使用する機材も多種多様になっている。特にERCPやEUSでは医師の手や足が内視鏡などの周辺機器や処置具の操作でふさがることは珍しくない。そこで、新たな取り組みとして非接触の時代を切り拓く音声操作ソリューション「MAGICHAND」を開発した。MAGICHANDは声による指示 (誤認識を防止するために事前に決められたボイスコマンド) を受けて、医師のもう一つの手として画像処理エンジン「VISTABRAIN*3」を操作できるようになる。

声で画像処理エンジンを操作するボイスコントロール「MAGICHAND (マジックハンド)」

具体的には、ユーザー様が求める画像処理やフレームレートを検査部位にあらかじめプリセットしておくことから始まる。事前の設定が完了した後、眼鏡・マスク・スコープ操作の邪魔にならない首にかけるタイプのマイク*4を装着する。あとは“Hey, VISTABRAIN”というウェイクワード(MAGICHANDの起動するコマンド)を発話して使用いただける。ウェイクワードを検知すると画像処理エンジンVISTABRAINは音声操作を受け付けられる状態 (ウェイク状態) になる。その後、所望のボイスコマンドが認識されると操作項目が画面上に現れ、該当のアクションを実施する。意図しない誤認識を回避するために一定の時間が経過した後は、スリープ状態 (ウェイクワードのみを受け付ける) に遷移する仕組みも併せて設けた。

各検査やシーンに適した画像処理やフレームレートを声で切り替えることで、視認性を向上したり、被ばくを低減したりすることが期待できる。本ソリューションについては、画像処理エンジンのVISTABRAINだけに限らず、わたしたちメーカーが常にユーザー様の「声」を受け取れる「ウェイク状態」になり、新たな操作方法やアイディアをもとに機能性の拡充を継続していきたい。

5 結語

初の試みの連続であったCUREVISTA Apexの開発。それは物質的な機能向上ではなく、顧客中心の視点から創り上げた「独自の価値化」への挑戦だった。本プロジェクトに携わったすべてのメンバーが「顧客価値」にこだわり、「リスク低減。低被ばく。シームレス。」をキーワードにそれぞれの想いを込めた。新商品を発売した2022年からまた新たな「声」をお客さまからいただき、次の開発に臨んでいきたい。

販売名: デジタルX線透視撮影システム CUREVISTA Open / CUREVISTA Apex

医療機器認証番号: 302ABBZX00032000

CUREVISTA Apexは販売名「デジタルX線透視撮影システム CUREVISTA Open / CUREVISTA Apex」の3WAY ARMを搭載したモデルの呼称です。
*1
CUREVISTA および *3 VISTABRAINは富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。
*2
IntelliMAPはオプションです。
*4
マイクは一般市販品をお客さまにて購入して頂く必要があります。

参考文献

1)
糸井隆夫:高品質な内視鏡手技のためのインフラ構築の実際,新医療2020年9月号:74-77,2020
2)
中井陽介,ほか:多様で低侵襲な胆膵内視鏡診断・治療に対応した透視をめざして,MEDIX70:15-19,2019
3)
原昭夫,ほか:IVR対応オフセットオープン方式多目的イメージングシステム“CUREVISTA”の開発,MEDIX46:58-61,2007

CUREVISTA Apex 製品ページ