空を見ながらMRI検査を…「Smart Theatre」株式会社総合企画社訪問

技術情報空を見ながらMRI検査を「Smart Theatre」
株式会社総合企画社訪問

空を見ながらMRI検査を…「Smart Theatre」株式会社総合企画社訪問

八杉幸浩 富士フイルムヘルスケア株式会社

MRIの検査は放射線被ばくが無いという利点はありますが、狭い検査空間で長時間動けずに、必ずしも被検者にやさしい検査とは言えません。特に狭いところが苦手な被検者にとっては苦痛な検査環境となっています。
そこで、検査空間の天井に映像を投影することで、検査環境を改善するシステム「Smart Theatre*」が登場しました。
今回は、この「Smart Theatre」を開発、販売する東京都、銀座にある株式会社総合企画社を訪ね、三瓶氏(代表取締役)、飯森氏(技術担当)のお二人にお話を聞きました。

御社について教えてください

三瓶氏:当社の主力業務は、製品マニュアルやカタログ、映像データなどを制作するドキュメント制作業務となります。富士フイルムヘルスケアさんとは、40年以上前から製品マニュアル制作などで協力させていただいています。今回、MRIの映像システムを当社の新たなビジネスとして開始しました。

三瓶 氏
三瓶 氏
飯森 氏
飯森 氏

「Smart Theatre」開発の経緯を教えてください

三瓶氏:2019年の5月に富士フイルムヘルスケアさんから開発依頼の打診がありました。1.5T超電導MRIを更新される脳神経外科クリニックの院長先生から、MRIの検査環境を改善する映像システムの要求があり、対応できないか?との相談でした。
納期は9月で4か月しか時間が無く困難な内容でしたが、トライしてみることにしました。

調査してみると、従来のMRI映像システムは高額で、効果は認められるものの、普及はしていませんでした。また、受信コイルミラーを介して映像を間接的に見せる方式が主流で、あまり解放感は得られないと思いました。
そこで、開発にあたってのコンセプトとして、以下の3点を考えました。

1. ボア内の直接映像投影受信コイルミラーを使用しないで解放感を得る

2. 低価格普及には安価であることが必要

3. 非薬機品MRI装置と機械的、電気的に分離した仕様

ボア内の直接投影は映像に包まれる感じを演出することで閉塞感を低減できるので、絶対に実現したいものでした。また、機材や手法を厳選して低価格に製作することが重要と考えました。このためにも非薬機品として、スピーディな製品化を行いました。

製品化の苦労を教えてください

飯森氏:当初は小型のプロジェクターでボア上面に映像を投影すれば良いと考えていましたが、はじめてのMRI実験で、持ち込んだプロジェクターが磁場影響で停止してしまった時には、技術的なハードルの高さを覚悟しました。
その後、プロジェクターを遠ざけるために光学的な手段を用い、検査室の外にプロジェクターを設置して、ミラーで反射させてボア上面に映像を導きました。
しかし、投影された画像はボケがひどく、光学調整のノウハウや使用するレンズ、ミラーの品質などにもこだわり、投影画質を向上して行きました。
さらに、設置に導波管工事が不要な検査室内設置方式のシステムに改良を進め、容易に設置できる製品にしました。
本体にはBGM機能を有していて、映像とリンクした音楽を楽しむこともできます。

実験中の飯森氏
実験中の飯森氏

映像コンテンツの厳選も大切でした。
映像内容としては、動きの多いものは映像酔いの原因となるので、落ち着いた映像が適しています。特に空の映像が好適で、被検者が天井を見上げた時に、「青空に広がる白い雲」を見せることで、奥行きを錯覚して解放感が得られることがわかりました。
また、夜空に繰り広げられる「オーロラ」や、水の中を優雅に泳ぐ「熱帯魚」などの映像で“開放感”と“奥行感”を演出し、緊張感と閉塞感を軽減させる効果を期待しています。

映像コンテンツ
映像コンテンツ

<映像投影のしくみ>

MRI対応の投影システムとしては、磁場対策、RFノイズシールドが必要となります。
図に示すように、このシステムは工事が不要な簡易設置方式を特徴とし、漏洩磁場の比較的少ないMRI装置背面の検査室隅に、小型のプロジェクターを内蔵したシールドケースを設置します。このシールドケースはステンレス製で質量が10kg以上あり、内部に磁性体が存在しても、磁場による吸引力よりも自重の方が大きいということで、MRコンパチブルの性能を有しています。

RFノイズに対しては、シールドケースに導波管を設け、この筒によりノイズを遮断して投影光のみを通します。この細長い筒では、一般的なプロジェクターの大きく広がる映像を通すことができません。そこで、プロジェクターのレンズ前面に長焦点レンズを光軸調整して配置し、投影光の焦点距離を延長することで、ビーム状に細くなった映像にて導波管を通しています。

映像を2枚のミラーで反射してボア内上面に導きますが、このとき、凹面となるボア内に斜めに投影することになり、映像は縦に伸び、凸状に歪みます。この歪量を計測しておき、逆歪を映像データにあらかじめ与えることで、歪補正を行うプロジェクションマッピング技術を用いています。

ボア内映像投影システム概要図
ボア内映像投影システム概要図

製品の最新情報を教えてください

三瓶氏:私がMRIで脳ドックを受けた時に検査時間がとても長いと感じました。
もし検査中に終了時間がわかれば、被検者は安心できるので、検査残時間の表示機能を研究しました。
試作機を医療施設に持ち込んで評価いただきましたが、残念ながら技師さんからは良い評価は得られませんでした。
実際のMRI検査では、追加撮像や動いてしまっての再検査など検査終了時間がわからないので、提示はできないとのご意見でした。
そこで、検査開始からの経過時間表示を行いたいと思いましたが、この製品は非薬機品であり、MRI装置との連動ができないので、技師さんに計時をスタートしていただく必要があり、これも実現できませんでした。

飯森氏:どうしても被検者に時間情報を見せたいと思い、光ファイバーで現在時刻と映像を操作室から伝送するシステムを新たに開発して、機能向上オプションとして発売しました。操作はタブレットで簡単に行え、4種類ある映像コンテンツをいつでも切替できます。
これは、「Smart Theatre」を実際に体験した患者さんの要望で、検査中に好きな映像に切り替えて欲しいという意見にも応えることができます。

新機能 映像選択・時計表示
新機能 映像選択・時計表示

三瓶氏:頭部撮像で映像を検査中に見せるためには天井投影が望ましいのですが、整形検査などではボア内に視界が無く、映像投影の効果が得られないことがあります。そこで、同様のシステムを使用してボアの側面に映像を投影するバリエーション装置も製品化しました。これは、MRI検査前の被検者の不安感を低減することが期待できます。
また、オープンMRIにおいても、開口ボア下面に映像を投影することで、同様の効果を狙ったシステムも発売しました。

側面投影システム
側面投影システム
オープンMRI 下面投影システム
オープンMRI 下面投影システム

本日はどうもありがとうございました。
このMRI映像システムによりMRI検査のハードルが下がり、より多くの被検者にMRI検査が適用されることを期待しています。

(株)総合企画
東京都中央区銀座1-13-9


*MRIボア内映像投影システム「Smart Theatre」は、株式会社総合企画の製品名称です。