X線骨密度測定装置ALPHYS LF使用経験
~測定精度と体組成機能の検証~ Experience using X-ray Bone Mineral Densitometry System ALPHYS LF
~Verification of measurement accuracy and body composition function~

  • 金井 俊樹Toshiki Kanai
  • 大和田 滋Shigeru Oowada

医療法人社団天宣会 北柏リハビリ総合病院 放射線科 / 透析センター
Medeical Corporation Tensenkai Kitakashiwa Rihabiritation General Hospital Radiology / Dialysis Center

富士フイルムヘルスケア株式会社製骨密度測定装置ALPHYS*1 LFにて、少数例ではあるがボランティアにおいて装置の最小有意変化(least significant changer:LSC)を測定し装置の高い精度を確認した。また、今装置より搭載された大腿部近位における除脂肪・脂肪量の測定が現行で行っていたCT装置の除脂肪量・脂肪量の測定と比較し、測定値の妥当性と有用性を評価し相関性を確認した。
CT検査は高額な費用と放射線被ばくなどの問題もあるため、腰椎・大腿骨の骨密度検査から筋量の指標を同時に測定できれば、患者への負担も少ない簡便なサルコペニア評価法などとしての有用性が期待できる。

Using the ALPHYS LF bone densitometry device manufactured by FUJIFILM Healthcare Corporation, the least significant changer (LSC) of the device was measured in a small number of volunteers, confirming the high accuracy of the device. In addition, we compared the measurement of fat-free mass and fat mass in the proximal thigh, which is now mounted on the device, with the measurement of fat-free mass and fat mass of the current CT device, and evaluated the validity and usefulness of the measured values. was evaluated and the correlation was confirmed.
CT examination has problems such as high cost and radiation exposure, so if muscle mass index can be measured simultaneously with bone density examination of lumbar spine and femur, it will be useful as a simple sarcopenia evaluation method with less burden on patients. can be expected.

Key Word

  • Bone Densitometry
  • Dual-energy X-ray Absorptiometry
  • Sarcopenia Evaluation Method

目次

1 はじめに

厚生労働省の調べによると、「要介護」と認定される原因の約1割は骨折・転倒となっている。骨折であれば、「治療すれば治る」と思った方もいらっしゃるかもしれない。もちろん、治療で骨折そのものは治るかもしれない。しかし、数週間に渡る入院は、筋肉量や心肺機能、活動意欲、認知機能といったものを低下させてしまう。そのため、最終的に認知症や寝たきり状態となり、要介護となっていくと言われてる。
転倒による骨折を防ぐには、「筋肉と骨」が重要となる。予防のためにも、まず、自身の状態を知ることが大切である。
「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」では、骨評価の方法としてDXA(Dual-energy X-ray Absorptiometry)が推奨されている。DXAは2種類の異なるエネルギーのX線を照射して、その透過の程度の違いから「骨」と「軟部組織(筋肉や脂肪)」を見分けることで、骨密度・除脂肪量・脂肪量などを測定する。
検査時間は5分~10分程度で、X線による被ばくは胸部レントゲンの約1/6程度で非常に身体への負担が少ない検査で、腰椎や大腿骨近位部を撮影することが多い。
当院でも、2018年から富士フイルムヘルスケア株式会社製骨密度測定装置DCS-900FXを使用し腰椎・大腿骨部による骨密度検査を行ってきた。また、除脂肪量・脂肪量の測定として富士フイルムヘルスケア社製CT装置Supria*2 Grandeを使用して概算値を計測してきた。
特にわれわれは、慢性維持透析患者のサルコペニアに着目し評価してきた。
慢性維持透析患者は腎不全や加齢のみでなく合併症、栄養状態の低下、筋蛋白異化の促進により身体機能は低下していきやすい。
また食事管理や水分管理による疲弊や、独居や孤食などによる社会的問題も透析患者は抱えており、サルコペニアやフレイルに陥りやすい傾向にある。
2022年に富士フイルムヘルスケア株式会社よりALPHYS LFが販売され骨密度測定と同時に大腿部付近における脂肪量・除脂肪量の参考値測定が可能となった。
機器の入れ替えに伴い、骨密度測定装置の性能評価としてLSCの測定を行った。
CT検査は高額な費用と放射線被ばくなどの問題もあるため、腰椎・大腿骨の骨密度検査から筋量の指標を同時に測定できれば、患者への負担も少ない簡便なサルコペニア評価法などとしての有用性が期待できる。
骨密度測定装置ALPYHS LFにおける除脂肪量・脂肪量の測定が、これまで行われていたCT装置におけるそれらの測定と比較し、測定値の妥当性と有用性を評価した。

2 骨密度装置ALPHYS LFのLSC評価

測定精度は、施設ごとにしかも測定部位ごとに取得することが臨床上重要である。当然のことながら、ファントムではなく人を測定対象とした値が必要である。ヒトを対象とする測定精度は、必ずしも1例に多数回の測定を強いる必要はなく、多数例にそれぞれ少数回(最低2回)の測定で十分である。
得られた各症例の変動係数(coefficient of variation;CV)は、標準偏差(SD)を平均値で除した値を100倍すると求まる。
最小有意変化(least significant changer:LSC)は、測定値が前回値に比して統計学的に有意に上昇あるいは低下しているか否かを判断する基準となる値である。
統計的にLSC値は、95%信頼区間を持たせる場合、CVの2.77倍以上の変化をもって有意とされる。(図1)

図1 最小有意変化(least significant changer:LSC)
図1 最小有意変化(least significant changer:LSC)

冒頭で説明したように測定精度は、施設ごとにしかも測定部位ごとに取得することが臨床上重要である。
当院倫理員会の承認を得て、骨密度測定装置ALPHYS LF導入時に40名の職員ボランティアにおいてLSC評価の測定を行った。
腰椎・大腿骨近位部ごとに2回測定を行い各部位における数値を計算し評価した。なお、腰椎に関しては1名手術後の金属が挿入されていたため39名での評価となった。
結果を以下の表1に示す。

表1 当院で行ったDXA装置ALPHYS LFの測定精度と最小有意変化
*RMS;root mean square(二乗平均平方根)
表1 当院で行ったDXA装置ALPHYS LFの測定精度と最小有意変化

推奨される各測定部位の変動係数と最小有意変化率は、腰椎では 1.9% (LSC=5.3%)、大腿骨近位部の頚部では2.5% (LSC=6.9%)、Total hipでは1.8% (LSC=5.0%)となっている。
いずれの部位においても、非常に高い信頼値を得ることができ、装置における測定精度も問題ないことが確認できた。

3 骨密度測定装置ALPHYS LFとCT装置における除脂肪量・脂肪量の妥当性および有用性の評価

富士フイルムヘルスケア株式会社製骨密度測定装置ALPHYS LF(DXA法)で得られた大腿部体組成(除脂肪量や除脂肪率等)測定値が富士フイルムヘルスケア株式会社製CT装置Supria Grandeで測定解析して得られた結果と比較し、測定値の妥当性および有用性を評価した。
評価方法は、同一のボランティア被験者51名を上記の骨密度装置とCT装置で大腿近位部の同一領域を測定する。
骨密度装置での体組成範囲は、大腿近位部(小転子下5㎝まで)(図2)とし、測定側大腿骨頚部にインプラントがある、下肢動脈に石灰化がある、測定体位をとれない、医師または測定技師が測定不可と判断した者は除く。
CT装置での体組成範囲は、骨密度装置での測定における同一範囲とした(図3)。また、筋肉および脂肪のCT値は筋肉;20~100、脂肪;-150~0を抽出した値とした。測定側大腿骨頚部にインプラントがある、下肢動脈に石灰化がある、測定体位をとれない、医師または測定技師が測定不可と判断した者は除く。
測定値は、骨密度測定装置では除脂肪と脂肪の重量、CT装置では筋肉と脂肪の体積となる。比較するパラメーターは、重量(体積)、除脂肪率(筋肉率)とした。
妥当性は、相関係数で判断した。
有用性は、骨密度測定装置の体組成とCT大腿骨全体の値と比較し、骨密度測定装置の体組成機能がCT測定の結果と比較することで確認した。
なお、DXAでは、骨と脂肪と除脂肪(筋肉、体液、血管等)の分類となるため、DXAの除脂肪とCTの筋肉で比較することとする。
臨床的評価は、健常ボランティアと透析患者の体組成値、骨密度値(SD値)を比較し臨床的評価をした。

使用装置

骨密度装置;富士フイルムヘルスケア社製 ALPHYS LF
CT装置;富士フイルムヘルスケア社製 Supria Grande
CT画像解析ソフト;キヤノンメディカルシステムズ社製(旧AZE) Virtual Place*3 新NT

骨密度装置測定プロトコル

骨密度測定解析条件
大腿骨骨密度測定(標準モード)
測定時間;約20秒 被ばく量 約156µSv
測定領域;測定の足はCTと同一とし、測定領域に小転子5㎝以上入るようにする。
体組成解析範囲;図1参照

CT装置撮影解析条件

撮像条件;64ch×0.625㎜、120kV、ACE(SD13、5㎜スライス)、BP1.1、F32IP3、平均DLP956.2±24.4 m㏉・㎝
解析画面;0.625㎜スライス
解析範囲;図2参照
解析方法;WSの機能で決められた脂肪および筋肉のCT値の範囲を抽出し体積を測定する

図2 DXA測定範囲
図2 DXA測定範囲
図3 CT測定範囲(大腿部全体と骨密度測定装置での同領域部位)
図3 CT測定範囲(大腿部全体と骨密度測定装置での同領域部位)

骨密度測定装置ALPHYS LF(DXA法)による体組成(脂肪量、除脂肪量、除脂肪率)とCT装置での骨密度測定装置と同領域部位の体組成(脂肪重量、筋肉重量、筋肉率)を健常ボランティアにて比較した結果を、表2、表3、表4に示す。

  DXA脂肪量(g) CT脂肪重量(cm3)大腿部全体 CT脂肪重量(cm3)DXA同一領域
DXA脂肪量(g) 1.000
CT脂肪重量(cm3)大腿部全体 0.843 1
CT脂肪重量(cm3)DXA同一領域 0.873 0.864 1

*DXA装置とCT装置の同一部位(脂肪)の相関はy=1.7805x+509.61 R2=0.7624
表2 脂肪量 相関係数

  DXA除脂肪量(g) CT筋肉重量(cm3)大腿部全体 CT筋肉重量(cm3)DXA同一領域
DXA除脂肪量(g) 1.000
CT筋肉重量(cm3)大腿部全体 0.810 1.000
CT筋肉重量(cm3)DXA同一領域 0.816 0.956 1.000

*DXA装置とCT装置の同一部位(除脂肪)の相関はy=0.9281x+111.88 R2=0.6654
表3 除脂肪量(筋肉量)相関係数

  DXA除脂肪量(g) CT筋肉重量(cm3)大腿部全体 CT筋肉重量(cm3)DXA同一領域
DXA除脂肪量(g) 1.000
CT筋肉重量(cm3)大腿部全体 0.887 1.000
CT筋肉重量(cm3)DXA同一領域 0.892 0.945 1.000

*DXA装置とCT装置の同一部位(除脂肪率)の相関はy=0.8407x-0.1586 R2=0.7952
表4 除脂肪率(筋肉率) 相関係数 <除脂肪/(除脂肪+脂肪)>

各表よりそれぞれの結果にて0.8以上の強い相関があった。また、CT装置における骨密度測定装置での同領域部位と大腿部全体との体組成比較においては、0.8~0.9以上の非常に強い相関があった。
以上から、骨密度測定装置ALPHYS LFで得られた大腿骨近位部における体組成の値は、今まで行ってきたCT装置での測定と同等の大腿部における体組成の状態を知ることができるといえる。ALPHYS LFの体組成機能は、大腿骨骨密度測定と同時に体組成成分を測定し、脂肪量、除脂肪量を算出できると考える。

次に臨床的評価について骨密度測定装置にて骨密度および体組成値を健常ボランティア51名(男性18名、女性33名)、透析患者59名(男性37名、女性22名)にて結果を比較した。結果は以下の表5、表6、の通りである。

  腰椎骨密度(g/cm2) 腰椎SD値 大腿骨頸部骨密度(g/cm2) 大腿骨頚部SD値 脂肪量(g) 除脂肪量(g)
平均 1.059 -0.054 0.810 -1.284 319.431 822.588
標準偏差 0.028 1.590 0.132 1.240 177.013 242.937
最小値 0.733 -2.6 0.52 -3.7 22 524
最大値 1.607 4.3 1.137 1.5 1051 1494

表5 健常者 骨密度測定装置 骨密度および体組成測定結果

  腰椎骨密度(g/cm2) 腰椎SD値 大腿骨頸部骨密度(g/cm2) 大腿骨頚部SD値 脂肪量(g) 除脂肪量(g)
平均 1.093 0.203 0.626 -2.821 171.224 700.241
標準偏差 0.295 2.340 0.177 1.757 123.172 206.919
最小値 0.453 -4.9 0.28 -5.9 31 262
最大値 1.846 6.2 1.074 3.4 583 1171

表6 透析患者 骨密度測定装置 骨密度および体組成測定結果

健常者と透析患者の体組成値を比較すると、健常者の方が脂肪量平均で+148.207、除脂肪量平均で+122.347と健常ボランティアがどちらも明らかに高い傾向にあった。
除脂肪率に換算する場合は、男女比や体形による影響などを考慮する必要があり、痩せすぎている場合はあたかも筋肉が非常に多いかのように錯覚させてしまうので単位面積当たりで算出するなど他の影響を考慮する必要がある。
また、骨密度の値(SD値)は、健常者の腰椎では平均で-0.054であり、大腿部では平均値で0.810であった。
透析患者の骨密度の値(SD値)は、腰椎では平均値で0.203、大腿部では平均値で0.626であった。
透析患者では変形による骨変性や仮骨形成なども多く、透析患者の腰椎骨密度が健常者より高いことは慎重に判断する必要がある。
変形の少ない大腿部頚部では透析患者の骨密度の方が明らかに低く、健常ボランティアよりも骨量減少または骨粗鬆症が多かった。

4 結語

これまで骨密度と体組成測定は別々の装置にて測定する必要があり、時間的な要因をはじめ放射線被ばくを含めた被験者への負担があった。また、透析患者では、透析前後の体重変化(体組成変化)があり同一条件での測定は困難であった。
インピーダンス測定のように体内に微弱な電流を流して電気抵抗(インピーダンス)を測定し脂肪の割合を算定する方法は、透析患者のように水分調整が行われていると測定結果の変動にも影響を及ぼす可能性があった。今回ALPHYS LFによる測定は、このような変動も抑制することが可能であり、有用な手法と考えられる。
透析患者は、骨粗鬆症発症や二次性副甲状腺機能亢進症等による骨病変の発症リスクが高いことが知られており早い段階でのフォローが必要である。また同時に同一部位で脂肪量、除脂肪量などの体組成を測定できることは簡便なサルコペニア評価法としての有用な検査となってくる可能性がある。
透析患者の透析時間は1回あたりおおむね4~5時間の治療を要する。それを週3回行う。フレイル・サルコペニアの予防・進行阻止のためにはリハビリ(運動療法)が重要な役割を担い、そのリハビリの有効性・有用性や骨代謝に影響するさまざまな薬物の効果判定法としてもALPHYS LFによる測定評価を活用していければと考えている。今回の測定は、男性・女性を混合した結果となっている。本来は、性別における筋肉量の差なども考慮する必要性が考えられる。また透析歴など透析における特有の影響やさまざまな因子がどのように関連しているかは今後の課題としていきたい。

*1 ALPHYS 、*2 Supria および Supria Grandeは富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。
*3 Virtual Placeはキヤノンメディカルシステムズ株式会社の登録商標です。

参考文献

1)
骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン2015年版 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 2015年5月発行
2)
図説DXAによる骨量測定-腰椎と大腿部近位部-
3)
GE HealthCare 臨床応用 研究報告 よりよいDXA骨密度測定と結果解釈のために
4)
GE HealthCare 臨床応用 研究報告 サルコペニア診断における骨格筋量測定
5)
公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット
6)
透析会誌55(6):357~363,2022 透析患者の骨粗鬆症管理