ARIETTA 65における前立腺診断へのアプローチApproach to prostate diagnosis in ARIETTA 65

  • 石黒 俊Suguru Ishiguro
  • 脇 康治Koji Waki
  • 宮本 延孝Nobutaka Miyamoto
  • 石田 耕一Koichi Ishida
  • 篠窪 彩子Ayako Shinokubo

富士フイルムヘルスケア株式会社

超音波診断装置は、前立腺の観察や生検ガイドとして広く使われており、当社の超音波診断装置ARIETTA*1シリーズでは、前立腺がんの検査に必要な機能が搭載されている。今回、普及機クラスであるARIETTA 65に対して、前立腺フュージョン機能、新規プローブおよびソフトウェア表示機能を開発したため紹介する。

Ultrasound system has been widely used for the diagnosis and the guide of biopsy to the prostate. There are functions for diagnosis of the prostate cancer in our ultrasound system ARIETTA series. This time, we developed prostate fusion function, new probes, and new display function in ARIETTA 65 which is general class, so we introduce them.

Key Word

  • MRI-US Fusion
  • Bi-Plane Probe
  • Transperineal Biopsy
  • Transrectal Biopsy

目次

1 はじめに

前立腺がんは世界で2番目に多い悪性腫瘍であり、年間約140万人が新規に罹患していると報告されている1)。そのため、前立腺がんを早期に発見し、治療方針の判断を行うことが重要となっている。
 前立腺がんの診断は超音波ガイド下の針生検が一般的であるが、病変が小さいと超音波画像の視認性が不足している場合があり、生検精度に課題があった。近年、MRI画像と超音波画像を融合して生検精度を上げるMRI-USフュージョン生検への注目が高まっている。
 超音波により前立腺を観察する方法として、汎用コンベックスプローブを用いて体表から前立腺を観察する方法と、直腸にプローブを挿入し、直腸壁から前立腺を観察する方法がある。直腸経由での観察は、脂肪など介在組織が少ないため、体表観察より鮮明な画像が得られやすい。
 また、前立腺生検には、直腸を経由する経直腸生検と会陰部を経由する経会陰生検の2通りがある。経直腸生検は、局所麻酔下で実施することが多いため比較的簡便であるが、便による感染のリスクがある。一方、経会陰生検は便に接触しないため感染リスクを抑えることができ、すでに欧州において経会陰生検が推奨されている2)
 本稿では、ARIETTA*1 65における前立腺の診断への新たなアプローチとして、MRI-USフュージョンによる生検システム、新規プローブおよびソフトウェア表示機能を開発したため紹介する。

2 MRI-USフュージョンによる前立腺生検機能の開発

超音波診断装置における他モダリティとのフュージョンは、2000年代初頭に開発され、肝臓、乳腺など多領域にて使用されている。当社は2003年にRVS(Real-time Virtual Sonography*2)を世界で初めて開発し、特に肝臓に対するラジオ波焼灼療法において広く普及している。
 今回、新たに前立腺生検に特化したMRI-USフュージョンによる標的生検システムを開発したので紹介する。

2.1 MRI-USフュージョンソフトウェアとの連携機能開発

MRI-USフュージョンによる前立腺生検のナビゲーションとしての機能は、欧米におけるベンチャー企業中心に開発が進み、ここ10年で急速に発展した。その中でも、MedCom社(本社:ドイツ連邦共和国ダルムシュタット)製の「BiopSeeソフトウェア」*3は、前立腺生検の専門機能や、経会陰生検のシンプルなワークフローを有したソフトウェアである。
 今回、BiopSeeソフトウェアと連携動作可能なARIETTA 65を開発した(以下、ARIETTA 65 IntuitiveFusion*4)。本システムでは、BiopSeeソフトウェアと連携するためのBiopSee接続機能を備えており、ワンボタンで超音波検査画面からBiopSeeソフトウェアの画面に切り替えることができる(図1)。これにより、高画質な超音波画像に加え、生検事前プランニング(図2)やレポート機能、弾性(Elastic)フュージョンなど専門機能を超音波診断装置上で使用可能となる。

図1 BiopSeeソフトウェアへの画面遷移
図1 BiopSeeソフトウェアへの画面遷移
図2 BiopSeeソフトウェアによる生検事前プランニング画面
図2 BiopSeeソフトウェアによる生検事前プランニング画面

2.2 システムの一体化

一般的なフュージョンシステムでは、超音波診断装置とは別のシステムが必要となるため、検査室の設置スペースや操作デバイスが異なることが課題であった。この課題に対し、ARIETTA 65 IntuitiveFusionでは、BiopSeeソフトウェアをインストールした解析用PCや、操作用のマウス、キーボードを超音波診断装置に搭載することによって、システムの一体化を行った(図3)。これにより、前立腺の観察から生検まで1台で完結するシステムが実現した。

図3 ARIETTA 65 IntuitiveFusion外観
図3 ARIETTA 65 IntuitiveFusion外観

3 プローブの開発

前立腺観察用のプローブとして、コンベックスバイプレーンプローブ(以下、CCプローブ)およびコンベックスリニアバイプレーンプローブ(以下、CLプローブ)がある。今回、それぞれの手技に合わせて2種類のプローブCC41R2とCL4416R1を開発したので紹介する。

3.1 CC41R2の開発(CCプローブ)

今回開発したCC41R2(図4)には、小径コンベックスアレイが縦断面と横断面を観察できるように配置されている。リアルタイムバイプレーン機能を併用することにより、前立腺全体を容易に把握できるという利点がある。さらに、挿入部の小径化により、挿入時における患者の苦痛を低減できると期待する。本プローブは主に経直腸生検に使用されるが、穿刺経路を3方向設けることによって、浅部から深部まで生検できるようにした(図5、6)。特に従来ではアプローチが難しかった、肛門部付近の前立腺生検に対応した。

図4 CC41R2(CCプローブ)
図4 CC41R2(CCプローブ)
図5 CCプローブの穿刺経路
図5 CCプローブの穿刺経路
図6 CC41R2接続時のリアルタイムバイプレーン+穿刺ガイドライン表示例
図6 CC41R2接続時のリアルタイムバイプレーン+穿刺ガイドライン表示例

3.2 CL4416R1の開発(CLプローブ)

従来のCLプローブにおいて、挿入長が短いことや挿入径が太いという課題があった。今回、前立腺全体を表示可能な視野幅、体格差にも柔軟に対応可能な挿入長や挿入径の改善に取り組み、CL4416R1(図7)を開発した。本プローブは主に経会陰生検に使用され、例えば前立腺肥大症により前立腺観察部位がプローブ保持部から遠くに位置する患者に対しても、前立腺全体を描出しながら生検が実施可能となった。さらに、挿入部の小径化により、挿入時における患者の苦痛を低減できると期待する。

図7 CL4416R1(CLプローブ)
図7 CL4416R1(CLプローブ)

4 前立腺観察に適したソフトウェア表示の開発

関心領域の把握を容易とし、効率的な前立腺検査を実現するために、CLプローブのリアルタイムバイプレーン表示や上下表示機能、また前立腺がん治療の一つである小線源療法等の観察サポート機能として、CLプローブ使用時の縦断面(リニア面)における穿刺ガイド(Linear Guidance)機能を開発したので紹介する。

4.1 リアルタイムバイプレーン表示

ARIETTAシリーズでは、超音波ガイド下の穿刺時に、針到達位置を縦断面/横断面で同時に観察するリアルタイムバイプレーン機能を有している。従来はCCプローブで本機能を可能としていたが、ARIETTA 65ではCLプローブでも本機能を可能とした。これにより、リアルタイムで両断面における穿刺位置を確認しながら生検を実施できるようになった。

4.2 上下表示

リアルタイムバイプレーン表示やカラーモード等の2画面の際、左右の2画面レイアウトでは、画像の両端が表示されず、前立腺全体を表示できない場合がある。このようなケースに対応するために、上下2画面レイアウトにも対応した(図8)。縦断面/横断面に対し、十分な視野角を保持して同時に観察することが可能となった。

4.3 小線源療法等の観察サポート機能の改善

ARIETTA 65には、診断だけでなく治療へのサポート機能として、小線源療法におけるテンプレートグリッドの表示機能がある。小線源療法ではテンプレートを用い、横断面(コンベックス面)に表示されたターゲットの位置(線源を留置する位置)まで、縦断面(リニア面)を観察しながら針を挿入することが多い。このとき、針はターゲットの位置までプローブ面に対して平行に挿入することが望ましい。そこで今回、プローブ面に対して平行なガイドラインを表示するLiner Guidance機能に対応した(図8)。Linear Guidanceを目安として針を挿入することで、ターゲットの位置まで直線的に穿刺することが容易となる。
 また、本機能はリアルタイムバイプレーン表示中にも使用可能となった。これにより、縦断面/横断面を同時に撮像しながら小線源療法等を実施することが可能である。

図8 上下2画面および左右2画面表示とLinear Guidance表示
図8 上下2画面および左右2画面表示とLinear Guidance表示

5 結語

本稿では、MRI-USフュージョンによる前立腺生検システム、および新規プローブと新規ソフトウェア表示機能の開発について紹介した。ARIETTA 65 IntuitiveFusionは、前立腺の観察から生検までの一連の流れを1台で実現する装置であり、今後、前立腺超音波検査を行う多くのユーザに使用頂けると考える。

販売名: 超音波診断装置 ARIETTA 65

医療機器認証番号: 230ABBZX00050000

販売名: BiopSee ソフトウェア

医療機器認証番号: 304AHBZI00023000

販売名: CC41R2 プローブ

医療機器認証番号: 304ABBZX00039000

販売名: CL4416R1 プローブ

医療機器認証番号: 303ABBZX00016000

*1 ARIETTA、*2 Real-time Virtual Sonographyは富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。
*3 BiopSee ソフトウェアは、吉田電材工業株式会社が選任製造販売業者です。
*4 ARIETTA 65はARIETTA 65 IntuitiveFusionと呼称します。