ARIETTA 750 DeepInsightの高画質化技術とアプリケーション High image quality technology and applications of ARIETTA 750 DeepInsight

  • 中島 真平Shinpei Nakajima
  • 井上 真也Shinya Inoue
  • 佐竹 丈二Joji Satake
  • 香西 和久Kazuhisa Kozai

富士フイルムヘルスケア株式会社

富士フイルムヘルスケア株式会社は、2023年4月にDeepInsight*1シリーズの第3弾としてARIETTA*2 750 DeepInsightを発売した。ARIETTA 750 DeepInsightは、プレミアムモデルのARIETTA 850 DeepInsightに搭載しているDeepInsight技術1) ※1をはじめとする高画質化技術を継承し、臨床領域におけるさまざまなニーズに柔軟に対応することが可能なハイエンドモデルの超音波診断装置である。本稿では、ARIETTA 750 DeepInsightの高画質化技術とアプリケーションについて説明する。

FUJIFILM Healthcare Corporation launched the ARIETTA 750 DeepInsight as the third product in the DeepInsight series in April 2023. ARIETTA 750 DeepInsight is a high-end diagnostic ultrasound system that inherits the DeepInsight technology and other high image quality technologies installed in the premium model ARIETTA 850 DeepInsight, and it can flexibly meet various needs in the clinical field. This paper describes the high image quality technology and applications of the ARIETTA 750 DeepInsight.

Key Word

  • DeepInsight
  • eFocusing PLUS
  • WMR PLUS
  • Carving Imaging

目次

1 はじめに

超音波診断装置は現代の医療において欠かせない存在であり、「画質の正確性」、「診断の再現性」、「検査の効率性」の要求は年々高まりつづけている。富士フイルムヘルスケア株式会社は、2023年4月にDeepInsight*1シリーズの第3弾としてARIETTA*2 750 DeepInsightを発売した。ARIETTA 750 DeepInsightは、プレミアムモデルのARIETTA 850 DeepInsightに搭載しているDeepInsight技術1) ※1をはじめとする高画質化技術を継承し、臨床領域におけるさまざまなニーズに柔軟に対応することが可能なハイエンドモデルの超音波診断装置である(図1)。ARIETTA 750 DeepInsightは、高画質化技術(Pure Image)と、検査者の負担軽減をめざしたワークフロー改善(Seamless Workflow)、幅広い領域の診断・治療に対応する高度なアプリケーション(Your Application)の製品特長を持つ。
本稿では、これらの製品特長のうち、高画質化技術とアプリケーションについて説明する。

図1 ARIETTA 750 DeepInsight 外観
図1 ARIETTA 750 DeepInsight 外観

2 検査者・被検者依存の少ない高詳細画像の提供:PureImage

2.1 DeepInsight 技術

超音波診断装置は超音波を生体内に送信し、組織から反射してきた受信信号の振幅を利用して、被検者体内の組織構造を画像化する。体内深部や減衰の強い組織からの微弱な超音波信号は、装置内の電気ノイズに埋もれやすく、視認性の低下につながる。図2に示すように電気ノイズの画像はスペックル信号と類似している。

図2 電気ノイズが多い超音波画像と電気ノイズを低減した超音波画像の例(腹部模擬ファントム)
図2 電気ノイズが多い超音波画像と電気ノイズを低減した超音波画像の例(腹部模擬ファントム)

特徴の似ているスペックル信号と電気ノイズを区別するために、微細な特徴の違いを高精度に認識できるAI技術を活用した。図3に処理フロー概念図を示す。画像処理する前の超音波信号には音波の周波数や位相など、体内組織の状態を反映したより多くの情報が含まれている。この超音波信号に対し、AI技術を適用することで超音波画像から不要な電気ノイズを効果的に除去し、超音波信号のみを高精度に抽出することに成功した。この技術を活用して開発した電気ノイズ除去技術を“DeepInsight 技術”として、搭載した。

図3 超音波診断装置の処理フロー概念図
図3 超音波診断装置の処理フロー概念図

図4に腹部を対象とした“DeepInsight 技術”の効果を示す。“DeepInsight 技術”により、肝実質の細かさを維持しつつ、肝表面から腹部血管まで視認性の高い画像を実現している。

図4 DeepInsight 技術 ON/OFF 比較画像 左:DeepInsight 技術 OFF  右:DeepInsight 技術 ON
図4 DeepInsight 技術 ON/OFF 比較画像
左:DeepInsight 技術 OFF  右:DeepInsight 技術 ON

2.2 eFocusing PLUS

フルフォーカス技術“eFocusing*3”は、日本超音波医学会第18回技術賞を受賞し、臨床において高評価を得ている。“eFocusing”では、1回の送信から従来より多数の受信ビームを形成し、受信領域が重なるように送信ビーム位置をシフトすることで、位置が重複している複数の受信ビームを合成する(図5)。複数の送信から得られた受信信号を合成しているため、信号対雑音比の向上効果も得られ、ペネトレーションが向上する。このように、“eFocusing”では、従来の課題であった送信フォーカス依存が軽減され、送信フォーカス深度の設定操作が不要となる。

図5 従来の方式(左)とeFocusing(右)の概略図
図5 従来の方式(左)とeFocusing(右)の概略図

ARIETTA 750 DeepInsightでは“eFocusing”をさらに進化させ、空間分解能と深部感度の両立を実現する“eFocusing PLUS1)”を搭載した。超音波診断装置では、高周波数は空間分解能に優れるが感度は劣る、低周波数は感度に優れるが空間分解能は劣るというトレードオフの関係がある。“eFocusing PLUS”は、“eFocusing”をベースに送受信周波数の異なるスキャンを行い、空間分解能に優れる高周波数での画像、感度に優れる低周波数での画像から、それぞれ優れた部分を取り出し合成する。
 図6に腹部を対象とした“eFocusing PLUS”の効果を示す。“eFocusing PLUS”により、腹部では近距離の肝表面から肝実質の細かさを維持しつつ、横隔膜に近い深部の肝実質まで感度の高い画像を実現している。“eFocusing PLUS”では、周波数を切り替えずに空間分解能と深部感度の両立が可能かつ安定して画像を描出することができ、被検者依存を低減する。

図6 eFocusing PLUS ON/OFF 比較画像 左:eFocusing PLUS OFF  右:eFocusing PLUS ON
図6 eFocusing PLUS ON/OFF 比較画像
左:eFocusing PLUS OFF  右:eFocusing PLUS ON

2.3 Wall Motion Reduction PLUS

ARIETTA 750のColor Dopplerモードは、Color Flowに加え、空間分解能に優れ、はみ出しが少ないeFlowで大血管から微細血管まで観察可能である。これらのColor Dopplerモードでは、プローブの動きや心拍動による体動ノイズが生じる。従来、体動ノイズが血流信号よりも速度が遅い傾向にあることを利用した“Wall Motion Reduction機能”(図7)を用いてきた。血流信号の速度が体動ノイズに対し十分に速い場合、これらの機能により体動ノイズのみを除去することができる。

図7 血流信号の速度が速い場合(左)と遅い場合(右)でのWall Filter機能
図7 血流信号の速度が速い場合(左)と遅い場合(右)でのWall Filter機能

ARIETTA 750 DeepInsightは、この機能を強化し、血流信号と体動ノイズの速度が近い場合でも体動ノイズを選択的に抑制可能な“Wall Motion Reduction PLUS1)(WMR PLUS)機能”(図8)を搭載した。血流信号は複数回の受信信号間で速度は一定でばらつきは小さくなる。一方、体動ノイズはプローブの動きや心拍動による速度は一定ではなく、ばらつきは大きくなる。“WMR PLUS機能”ではこれらの特性を利用し、ばらつきの大きい成分を体動ノイズと判断し、積極的に抑制している。

図8 WMR PLUS機能概略図
図8 WMR PLUS機能概略図

図9に腹部を対象とした“WMR PLUS機能”の効果を示す。心拍動による体動ノイズが抑制され、肝静脈血流の視認性が向上している。

図9 WMR PLUS機能 ON/OFF 比較画像 左:WMR PLUS機能 OFF  右:WMR PLUS機能 ON
図9 WMR PLUS機能 ON/OFF 比較画像
左:WMR PLUS機能 OFF  右:WMR PLUS機能 ON

2.4 Carving Imaging

超音波診断において、臓器等の組織構造の視認性には被検者依存があり、ルーチン検査では描出が難しい場合がある。“Carving Imaging*4機能”は、画像の輝度変化に着目し、①輝度変化のある箇所をエッジとしてシャープに協調、②組織構造をつなげる、③低輝度で変化が少ない部分をノイズ除去、と処理することで、組織構造の視認性の良さを追求した「見やすい」画像を実現する(図10、図11)。

Carving Imaging機能概略図
図10 Carving Imaging機能概略図
Carving Imaging 機能 ON/OFF 比較画像 左:Carving Imaging 機能 OFF  右:Carving Imaging 機能 ON
図11 Carving Imaging機能 ON/OFF 比較画像
左:Carving Imaging機能 OFF  右:Carving Imaging機能 ON

ARIETTA 750 DeepInsightは、“Carving Imaging機能”を強化し、組織構造結合の視認性を向上した。これにより、ノイズレスでクリアな画像で、被検者依存の少ない安定した描出を実現する。

3 幅広い領域に対応する高度なアプリケーション:Your Application

3.1 RTE(Real-time Tissue Elastography)、SWM(Shear Wave Measurement)

近年、脂肪肝由来の肝疾患が増加しており、肝疾患の早期発見、薬物療法、フォローアップのために非侵襲的な検査手法が求められている。組織の硬さを定量的に評価できるRTE(Real-time Tissue Elastography*5)やSWM(Shear Wave Measurement)は、肝炎から肝線維化、肝硬変といった肝疾患の総合的な診断をサポートする機能である。また、乳腺領域においてはRTEによる病変の評価方法として、病変と脂肪のひずみの比(Fat Lesion Ratio)を計測する場合がある。ARIETTA 750 DeepInsightは、計測に適したフレームを自動で選択するAuto Frame Selectionと、計測に必要なROIの設定を自動で行うAssist Strain Ratioを搭載しており、計測時の検査者依存を低減し、客観性・再現性の高い評価が可能である。

3.2 iATT(Attenuation Measurement)

肝組織の超音波の減衰係数を計測することで肝臓の脂肪化を推定することができるiATT(Attenuation Measurement)2)は、非アルコール性脂肪肝疾患等による脂肪肝の進展評価をサポートする機能である。
iATTは、下記(a)~(c)の技術開発を行うことで、従来のATTよりも、高い減衰推定性能を実現する。
(a)解析範囲の設定:皮下脂肪や横隔膜等の構造物がなく肝実質のみをとらえやすい解析範囲を設定
(b)送受信の設定:フォーカス・受信ゲイン等を調整し、直線性の高い受信振幅を取得
(c)減衰計測方式の見直し:4MHzの生体信号に近似した減衰振幅信号を作成し、テーブルリファレンス方式を採用
さらに、iATTは、ガイドグラフィック幅の狭域化など、ワークフローに寄与する改善も行い、撮像が簡便になっている。

3.3 RVS(Real-time Virtual Sonography)

RVS(Real-time Virtual Sonography*6)は、CT・MRI・超音波診断装置のボリュームデータから作成したMPR(Multi Planar Reconstruction またはReformation、任意多断面再構成)画像をリアルタイムで超音波画像と同期させる機能である。超音波診断装置のプローブに装着した位置センサーにより、空間的位置情報(座標軸)を装置に送ることで実現する。超音波で見えづらい腫瘤のナビゲーションに有用で、超音波ガイド下の治療などをサポートすることができる。

4 まとめ

DeepInsightシリーズの第3弾として発売されたARIETTA 750 DeepInsightの高画質化技術とアプリケーションについて説明した。ARIETTA 750 DeepInsightは、プレミアムモデルのARIETTA 850 DeepInsightとARIETTA 650 DeepInsightの間に位置付けられ、DeepInsight技術搭載機種のラインアップを充実させるハイエンドモデルの超音波診断装置である。高画質化技術(Pure Image)と、検査者の負担軽減をめざしたワークフロー改善(Seamless Workflow)、幅広い領域の診断・治療に対応する高度なアプリケーション(Your Application)の3つの製品特長を持ち、各種疾患の早期発見に貢献する。
 富士フイルムヘルスケア株式会社は、超音波診断装置のリーディングカンパニーとして今後もユーザーの多様なニーズに応え、医療の発展と人々の健康の維持増進に貢献していく。

販売名: 超音波診断装置 ARIETTA 750

医療機器認証番号: 301ABBZX00007000

販売名: 超音波診断装置ALOKA ARIETTA 850

医療機器認証番号: 228ABBZX00147000

販売名: 超音波診断装置ARIETTA 650

医療機器認証番号: 303ABBZX00058000

※1
AI技術のひとつである機械学習を用いて開発した新しいノイズ除去技術であり、製品の導入後に性能・精度が変化することはありません。
※2
ALOKA*7 ARIETTA 850はARIETTA 850 DeepInsightと呼称します。
※3
ARIETTA 750はARIETTA 750 DeepInsightと呼称します。
※4
ARIETTA 650はARIETTA 650 DeepInsightと呼称します。
※5
製品の改良により予告なく記載されている仕様が変更になることがあります。
*1 DeepInsight、*2 ARIETTA、*3 eFocusing、*4 Carving Imaging、*5 Real-time Tissue Elastography、*6 Real-time Virtual Sonographyは富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。
*7 ALOKAは日本レイテック株式会社の登録商標です。