逐次再構成法と深層学習再構成法を用いたMRデノイズ技術 MR denoising Using Iterative Reconstruction and Deep Learning Reconstruction

  • 鈴木 敦郎1)Suzuki Atsuro
  • 雨宮 知樹1)Amemiya Tomoki
  • 金子 幸生1)Kaneko Yukio
  • 白猪 亨1)Shirai Toru
  • 西尾 慧祐2)Nishio Keisuke
  • 庄司 博樹2)Shoji Hiroki

1) 富士フイルム株式会社

2) 富士フイルムヘルスケア株式会社

MRIの撮像時間の短縮は、患者の負担軽減、検査スループットの向上において非常に重要である。MRIの高速撮像法であるパラレルイメージングにより撮像時間を短縮することが可能である一方で、空間的に不均一なノイズが発生する課題がある。そこで、この空間的な不均一ノイズを低減するために逐次再構成法「IP (Iterative Process)-RAPID」を開発した。また、逐次再構成法を適用後に残存するノイズを深層学習再構成法「DLR (Deep Learning Reconstruction)」により低減する方法を開発した。IP-RAPIDとDLRを組み合わせたデノイズを用いることで、さまざまな部位の撮像時間を短縮することが可能となる。本稿では、デノイズの特長と画像適用例を紹介する。

Shortening the scan time of MRI is important to reduce patient’s burden and improve scan throughput. Although parallel imaging of MRI can shorten the scan time、 spatially non-uniform noise occurs in a reconstructed image. To reduce the spatially non-uniform noise、 an iterative reconstruction “IP (Iterative Process)-RAPID” was developed. In addition、 to reduce the residual noise in the image reconstructed by IP-RAPID、 deep learning reconstruction “DLR (Deep Learning Reconstruction)” was also developed. The combination of IP-RAPID and DLR can shorten the scan time for various body parts. This paper shows the features of IP-RAPID and DLR and examples of applying the technology.

Key Word

  • Magnetic Resonance Imaging
  • Parallel Imaging
  • Iterative Process
  • Deep Learning
  • Reconstruction
  • Denoising

目次

1 はじめに

MRI(Magnetic Resonance Imaging)は、核磁気共鳴現象を利用した医用断層像撮像装置である。非侵襲に任意断面の撮像が可能であり、脳などの軟部組織の抽出に優れている。MRIは、撮像シーケンスや撮像パラメータの変更によりさまざまな組織コントラストの画像を取得できることから、形態情報のほか、血流や代謝機能などの生体機能に関する情報が取得可能であり、画像診断分野では不可欠な診断装置となっている。
一般に、MRI検査では、生体組織の磁気共鳴パラメータの相対的な違いを強調させた強調画像を撮像にて取得する。強調画像には、T1強調画像、T2強調画像、FLAIR画像等がある。診断はこれらの強調画像を用いて統合的に行われるため、MRI検査では一度の検査の中で複数回の撮像を実施する。そのため、MRIの検査時間は長く、臨床現場ではMRI検査のスループット向上が強く求められている。
検査時間には患者・コイルのセットアップ、撮像位置の設定、撮像、退出などの時間が含まれるが、中でも撮像時間は検査時間の半分以上を占める。そのため、撮像時間の短縮は高検査スループット化における重要な要素であり、これまでにさまざまな手法が考案されてきた。高速撮像法の一つにパラレルイメージングがある1)。計測空間(k空間)を等間隔に間引くパラレルイメージングは、2次元、3次元撮像ともに適用可能であり、MRIの臨床撮像で広く用いられている。この方法では、倍速数をAR(Acceleration Rate)とすると、k空間データを1/ARに対応した一定の間隔で間引いて計測し、各受信コイルの感度分布差を用いて元の画像を復元する。このとき、撮像時間が1/ARになるが、ARが高くなると空間的に不均一なノイズが発生する1)。したがって、パラレルイメージングにおいて発生する空間的に不均一な強度のノイズの低減は、短時間撮像を実現する上で必要不可欠である。
この空間的不均一ノイズを低減する方法として、われわれは再構成後の画像に対して逐次的にデノイズを行う方法をすでに開発している2)。今回、逐次的にデノイズを行う方法の改良版として、空間的不均一ノイズと画像全体に混入するノイズを低減するために、未計測データを補間する逐次再構成法「IP (Iterative Process)-RAPID」と深層学習再構成法「DLR (Deep Learning Reconstruction)」を組み合わせた再構成法を開発した3)。本手法は、パラレルイメージング再構成で生じる空間的に不均一な強度のノイズをIP-RAPIDで低減し、再構成画像に残存するノイズをDLRで低減する。

2 IP-RAPIDの概要

図1に開発した手法のフローチャートを示す。IP-RAPIDでは、POCS (Projection onto Convex Sets)法を用いた繰り返し演算による画像再構成法4)にウェーブレット変換を用いたソフト閾値処理を追加した手法である3)。逐次再構成の過程において未計測点を補間することで、空間的に不均一なノイズを低減することが可能となる。IP-RAPIDは間引かれたk空間の各受信コイルの計測した信号Kを入力として、未計測点が補間されたk空間の推定信号K’をデータ整合性処理(Data consistency)により生成し、コイル画像合成により実空間の画像I’を出力する。実空間の画像I’をウェーブレット変換後、ソフト閾値処理を実行する。これら一連の処理を繰り返し行うことで再構成した実空間の画像に発生する空間的に不均一なノイズを抑制しながら画像を収束させる。

図1 デノイズのフローチャート
図1 デノイズのフローチャート

3 DLRの概要

次にフローチャート(図1)に示したDLRについて説明する。DLRは多層からなるCNN(Convolutional Neural Network)を使った処理方法である3), 5)。DLRにおける学習は、参照画像とノイズ画像からなる学習画像のペアを用いて行われる3) , 5)。参照画像とは、ノイズの少ない理想的なMRI画像であり、ノイズ画像とは、ノイズが多いMRI画像である。DLRの学習では、入力されたノイズ画像に複数回の畳み込み演算を実行して画像を出力する。この出力画像と参照画像の残差二乗和が最小になるように畳み込み演算のパラメータが決定される。つまり、ノイズ画像が参照画像に近づくようにパラメータの学習が行われる。DLRの学習に用いたデータは、多数の部位の複数のコントラストの画像から成る小パッチ130万枚の画像を用いた。本研究のデータは富士フイルムヘルスケア株式会社で定める倫理審査基準に則り審査され、すべての被験者からインフォームド・コンセントを得た上で取得された。

4 IP-RAPIDとDLRを用いたデノイズ

次に、IP-RAPIDとDLRを適用した結果について説明する。ここでは、1.5T MRI装置で撮像した健常者の頭部FLAIR画像への適用結果について説明する。図2に、FLAIR画像の(a)1倍速画像、(b)3倍速画像、(c)3倍速画像にDLRを適用した画像、(d)3倍速画像にIP-RAPIDを適用した画像、(e)3倍速画像にIP-RAPIDを適用後DLRを適用した画像をそれぞれ示す。
図2(a)の1倍速画像に比べて図2(b)の3倍速画像はノイズが増加しており、特に赤い矢印で示した領域にノイズが増加していることが分かる。図2(c)に示すように、3倍速画像に生じたノイズ(赤の破線で囲った領域)はDLRを適用することで低減できているものの、赤い矢印で示した領域のノイズは低減しきれていないことが分かる。一方、図2(d)に示すように、IP-RAPIDで生成した画像では赤い矢印で示した領域のノイズが低減できていることが分かる。また、図2(e)に示すように、IP-RAPIDで生成した画像にDLRを適用することでIP-RAPIDで生成した画像に残存していたノイズが低減できていることが分かる。

図2 健常者の頭部FLAIR画像:(a)1倍速画像、(b)3倍速画像、(c)3倍速画像にDLRを適用した画像、(d) 3倍速画像にIP-RAPIDを適用した画像、(e) 3倍速画像にIP-RAPIDとDLRを適用した画像
図2 健常者の頭部FLAIR画像:(a)1倍速画像、(b)3倍速画像、(c)3倍速画像にDLRを適用した画像、(d) 3倍速画像にIP-RAPIDを適用した画像、(e) 3倍速画像にIP-RAPIDとDLRを適用した画像

5 ルーチン検査への適用例

IP-RAPIDとDLRを組み合わせたデノイズを1.5T MRI装置のルーチン検査に相当する撮像時間を短縮して撮像した健常者の画像に適用した例を紹介する。図3、図4、図5に、頭部、膝、腰椎の画像にデノイズを適用した例をそれぞれ示す。頭部、膝、腰椎において、それぞれ、69%、70%、69%の撮像時間の短縮を行った場合である。撮像時間を短縮しても、デノイズにより良好な画像が取得可能なことが分かる。

図3 頭部画像へのデノイズ適用例
図3 頭部画像へのデノイズ適用例
図4 膝画像へのデノイズ適用例*
図4 膝画像へのデノイズ適用例*
図5 腰椎画像へのデノイズ適用例
図5 腰椎画像へのデノイズ適用例

6 結語

IP-RAPIDとDLRを組み合わせたデノイズの評価により、パラレルイメージング再構成で生じる空間的に不均一な強度のノイズをIP-RAPIDで低減し、再構成画像に残存するノイズをDLRで低減可能なことが分かった。また、撮像時間を短縮可能なことも分かった。本手法により、患者の負担軽減と病院の検査のスループットの向上を図れる見通しが得られた。

* FatSepは富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。

参考文献

1)
Pruessmann KP、 et al.、 SENSE: Sensitivity Encoding for Fast MRI. Magnetic Resonance in Medicine 42: 952-962、 1999.
2)
白猪亨、 ほか :逐次ノイズ除去法を用いたパラレルイメージング画像の高画質化.日本放射線技術学会総会学術大会、 74:O431、 2018.
3)
Suzuki A、 et al.、 Combination of Iterative Reconstruction and CNN-based Denoising for Non-uniform Noise for Parallel Imaging in MRI. Medical Imaging Technology、 in press.
4)
Samsonov AA、 et al.、 POCSENSE: POCS-based reconstruction for sensitivity encoded magnetic resonance imaging. Magnetic Resonance in Medicine. 52: 1397-406、 2004.
5)
西尾慧祐、ほか:SRCNNを用いたDeep Learning Reconstructionの基礎評価. 日本磁気共鳴医学会大会、PP15-2、2022.

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