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納入事例 クラウドファンディングによる超音波診断装置導入で精度の高い「乳がん検診」 をめざして
-ARIETTA 850 DeepInsight/eScreening活用事例- 社会福祉法人
恩賜
財団
済生会松阪総合病院

聞き手:桒山 真紀富士フイルムヘルスケア株式会社

概要

済生会松阪総合病院は地域の中核病院として、救急医療から各種がん診療や生活習慣病など総合病院として幅広い診療が行われています。

今回、医療業界で資金調達のニューノーマルとなりつつあるクラウドファンディングを通じてARIETTA*1 850 DeepInsight*2を健診センターに導入いただきました。クラウドファンディングを活用した背景や効果について三重県済生会支部 山本 幸治参与(前松阪総合病院事務部長)、導入装置の機能や使用感について済生会松阪総合病院 臨床検査課 福本 義輝課長と中川 真理子主任、また今後の乳がん検診の展望について乳腺外科 医長 柏倉 由実先生にお話を伺いました。

病院の概略:立地、規模、理念

山本参与済生会は明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと1911(明治44)年に設立し、三重県ではこの松阪の地に1937(昭和12)年に開院しました。
当院は地域の中核病院として、救急医療から各種がん診療や生活習慣病など総合病院として幅広く診療を行っています。特に消化器、脊椎、脳・脊髄血管カテーテル治療、腹腔鏡手術・ヘルニア、乳腺および腎臓・透析、内視鏡部門においてはそれぞれセンター化しています。さらに、病院と併設している「ART・生殖医療センター」では平成7年より不妊外来を開設し、平成8年より体外受精を開始しています。現在では精巣内精子による顕微授精、凍結胚移植も実施し最先端生殖医療にも積極的に取り組んでいます。「みえPETがん診断センター」「健診センターあさひ」では、最新の医療診断機器装置を備え高度な予防医療を追及しています。
当院は地域医療の拠点のみならず、地域の予防医療の拠点をめざしています。また、2002年より多職種(医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、管理栄養士、理学・作業療法士、臨床工学技士など)からなるチーム医療を推進し、患者さんを第一にした全人的医療に努めています。
安心、安全な治療を提供するために感染対策や医療安全にも注力し、職員教育も重要と考えています。当院は院内保育園(たんぽぽ)の併設など職場環境を整え三重県の「女性が働きやすい医療機関」の認証を受けました。患者さんに「救療済生」の精神に基づいた、こころからの医療と福祉を提供するためには、働きやすい職場環境が大切であると考えています。
私たちは大きく変化する社会情勢に遅れず対応し、常に最上の医療を提供できるように努めたいと考えています。新病院建築へ向けて皆さまのご意見をうかがいながら『人にやさしく信頼される急性期病院』としてよりよい病院にしていきたいと思います。

「女性が働きやすい医療機関」認証書
「女性が働きやすい医療機関」認証書

クラウドファンディング活用の背景と効果

今回の装置ご導入ではクラウドファンディングを活用された背景を教えてください。

山本参与済生会が掲げる「社会から誰一人取り残さない」というソーシャルインクルージョンの実現に向け、積極的にクラウドファンディング活用を推進しています。済生会は、国民に必要な医療を確保するとともに、医療の向上を進めるための中核の役割を担い、へき地における医療、民間が対応できない収益性の低い医療を積極的に行う公的病院です。
「クラウドファンディング」を実施することは、活動資金を調達するだけでなく、済生会が行う活動を知っていただき、共感していただける皆様とつながることができると考え、今回、「乳がん早期発見に向け、AIを活用した超音波診断装置を新しく導入するためのクラウドファンディング(寄付募集)」を実施することとなりました。
当院の乳腺センターは乳がんに特化した乳腺外科医が専門的に診療を行う体制を整えており、市内外問わず初診外来で乳がん検診希望者は増加傾向にあります。超音波検査は被ばくがなく繰り返し検査可能であり、病理組織像が反映された優れた画像検査で、乳がん検診でも欠かせないモダリティです。
今回のクラウドファンディング対象の機器は、開発に「AI技術が活用」され、従来の装置に比較して性能が向上しています。超音波画像の分解能が上がれば、乳腺をより明瞭、詳細、迅速に観察することができ、検査時間の短縮につながります。検診で重要視される「見落としを防ぐ検査」のために、日々、超音波検査技術の向上に努力していますが、さらに最新機器の導入によって、人々を乳がんから救うために、より精度の高い検査を提供できると考え今回の超音波診断装置を選択しました。

済生会病院の取り組み
済生会病院の取り組み
クラウドファンディング活動で活用したリーフレット
クラウドファンディング活動で活用したリーフレット

この取り組みによる院内外の変化について教えてください。

山本参与機器導入方法にクラウドファンディングの方法があることを職員に周知できました。しかし、資金調達を病院関係者以外の市民にまでお願いすることに違和感の声もあり、理解を得るまでに繰り返し説明会を行い、時間を必要としました。最終的には、多種多様なネットワークを通じて地域内外の方々や各企業様、各団体様、各クリニックの先生方から支援を集めることができました。病院のブランドイメージを高めるには「地域への貢献」や「環境への配慮」など長期間にわたって努力が必要になります。今回クラウドファンディングを実施したことで、施設の存在はもちろんですが、最新の超音波診断装置を導入することで、より精度の高い乳腺診療を提供できる施設であることを広くアピールできたことは最大の広報戦略であったと思います。

山本参与(左)と富士フイルムヘルスケア(株)岡(右)
山本参与(左)と富士フイルムヘルスケア(株)岡(右)

この経験を踏まえて読者の参考になる情報提供の観点からご意見をきかせください。

山本参与どこの施設でも機器購入については年度内の予算計上が必要となります。どうしても必要性のあるものが優先的に購入となる場合が多々あります。予算の優先順位は低いですが、医療機関として大切にしたい事業の費用を集めるのに、クラウドファンディングは新しい選択肢になると思います。今後、ますます、クラウドファンディングを活用した機器購入を考慮する施設が増えると思われます。さらに、疾患啓発や病院の広報戦略を考える中、医療分野でも社会を巻き込む取り組みが必要であり、クラウドファンディングが新しい医療系コンテンツになる可能性を感じています。

柏倉先生装置が壊れていなくても劣化しており、検査者の立場としては買い替えてほしいけれど、超音波診断装置は院内に複数台あるので買い替えてもらえない、気づいてもらえないこともありました。今回、検診を受けていただく立場の方たち、あるいはご自身の経験から後世の方たちに少しでも良くなるようにと、資金調達にご協力いただき、装置購入が実現できたことは素晴らしいと思います。

柏倉先生
柏倉先生

健診センターに求められる超音波とは

健診センターの特徴や運用、健診領域の超音波検査で重要視している事柄を教えてください。

福本課長健診センターでは、いわゆる生活習慣病である脳卒中や心筋梗塞、糖尿病へ対応できるようなオプション検査項目を取り入れています。それらにしっかり対応できるように、超音波検査も組み込んでいます。
病院では「女性が受診しやすい病院医療機関」を目標として掲げています。健診センターでは医師をはじめ、検査者、事務スタッフなどすべて女性職員で対応するレディースデイや、マンモグラフィと乳腺エコーを休日に行うマンモサンデーを設けて数年前より継続しています。さらに、月に1回、性別を限定しない土曜健診も行っています。受診者の傾向としては若い女性が多い印象があります。

中川主任働く女性も多いですし、働いていない女性でも小さなお子さんをお持ちだったり介護が必要なご家族がいたりすると、平日受診のハードルが高いと思うので、休日健診は女性に喜んでいただけるいい取り組みだと思っています。

福本課長
福本課長
中川主任(左)と福本課長(右)
中川主任(左)と福本課長(右)

健診領域の超音波診断装置に求める性能をどのようにお考えでしょうか。

福本課長超音波検査は病院での診断においても大事ですが、健診でこそ重要な位置にあるものだと思っています。超音波検査は検査者の技量や装置の性能に大きく影響を受ける検査です。装置性能は日進月歩で進化し、私が検査を始めた頃とは比べものにならない鮮明な画像が描出されるようになりました。高画質化に伴い、診断の質、再現性、検査効率も向上しました。今回導入したARIETTA*1 850 DeepInsight*2は画像開発にAI技術が活用され、深部減衰のために観察不良となっていた部分が観察できるようになり、結果として検査時間が短縮できるので非常に助かっています。また、AIが活用された検出支援機能eScreeningは、装置が輝度特徴量を解析、表示して検査者をサポートしてくれます。検査者の負担軽減、検査者間の技量差、診断精度の差を埋め、診断効率の向上に寄与するのではないかと期待しています。

中川主任最近の装置では、画質や機能以外の部分でも、プローブの切り替えやバーコードによる被検査者情報入力など、ワークフローの細部にわたって時間短縮ができ、技師の負担が軽減しました。観察する時間は確保し、他の手間を削減することで検査時間の短縮、さらには多くの件数をこなせるようになりました。

柏倉先生乳腺外科医の立場としては、マンモグラフィでは拾いきれないデンスブレストに隠れてしまう腫瘤が見つけやすい画質であること、そして、マンモグラフィでFAD(局所的非対称性陰影)と指摘されたものを超音波検査で確認する時、自信を持った診断が下せる画質であることを求めています。

柏倉先生
柏倉先生

健診におけるARIETTA 850 DeepInsight

導入したARIETTA 850 DeepInsightの使用感について教えてください。

中川主任特に良くなったのはL55プローブの画質です。以前よりも、高い分解能で深部まで鮮明に観察できます。Bモードの描出だけでなく、カラードプラも深部の血管まで明瞭に観察可能となりました。さらに、エラストグラフィも深部のひずみの違いまで正確に把握できています。
ルーチンの観察条件としてeFocusing PLUSをメインで使用しています。フォーカスを合わせる手間もなく、浅部から深部まで全体が鮮明に描出可能で、構造の関係性が分かりやすく助かっています。

中川主任
中川主任

eScreeningの活用方法を教えてください。

中川主任スクリーニングは縦横2方向でスキャンしていますが、縦走査は普通にスキャンして横走査でeScreeningを活用しています。縦走査で見つけた腫瘤に2回目の横走査でeScreeningが反応する時は、自分の観察に安心や自信を持てます。反対に拾い上げるか迷った場合に、私とeScreeningとでダブルチェックができることを期待しています。まだ導入直後なので、eScreeningがどんなものに反応するのか把握し、使用感を試しているところです。
当施設では検査室で他領域の検査も行いながら並行して乳腺の勉強をしなければいけないため、乳腺外科医から完全に任されて独り立ちするまでには約1年かかります。eScreeningを使用していると、初心者だったころのピットフォールが思い出され、初心者を指導する際に、注意すべき点に気づかされました。そういった点から教育の場面でも一つの相談相手として活用できることを期待しています。

eScreeningが有用であった症例を教えてください。

症例1はBモードでは一見病変と認識しづらい境界不明瞭な腫瘤でした。eScreeningでも的確にマークされ、エラストグラフィでもひずみの低下がみられました。eScreeningおよびエラストグラフィが確信度に寄与した症例です。

症例1 浸潤性乳管癌(硬性型)
症例1 浸潤性乳管癌(硬性型)

症例2は検診で拾い上げたい目標である約5mmの腫瘤でした。eScreening下で多方向から観察してもマークされました。導入翌日の症例で、「本当に拾ってくれるんだ」と実感した症例です。エラストグラフィでもひずみの低下を認め、拾い上げるべき病変と判断しました。

症例2 非浸潤性乳管癌
症例2 非浸潤性乳管癌

検診の課題と今後の展望

ご施設の乳がん診療や乳がん検診の状況について教えてください。

柏倉先生マンモグラフィによる乳がん検診は年間約4,000~5,000件、超音波による検診は約1,500~2,000件程度です。残念ながら、市の政策により当院での超音波検査は検診補助の対象外となり、マンモグラフィと超音波の併用検診は少なく1割程度です。さらに、当施設では超音波をご希望いただいても検査枠がとれない場合もあるため、承諾いただいた受診者の一部の方にトモシンセシスを受けていただき、超音波検査の代用とすることができないかやってみています。
超音波の活躍によって検査の感度と特異度を高く保てると考えていますので、併用検診で両検査を受ける意味があることを訴えたいです。

超音波による乳がん検診に求めるもの、今後の健診や女性医療の将来展望についておきかせください。

柏倉先生三重県内の検診受診率は10年前に比べ随分上がり、受診者の意識も向上していると思います。
それでも、女性の受診率は男性に比べて低いですし、海外と比べても低い値なので、受診率をもっと上げられるようにしたいです。検診を受けたら終わりではなく、受けて要精査と判定されたときにきちんと病院で精密検査を受けることを当たり前の文化にしたいです。当施設では、健診センターと病院が連携していることを受診者にお話しています。検診結果が病院での精密検査に引き継がれ、病院での精密検査の情報も健診センターに共有されます。病院での精密検査内容が、次回以降の検診に生かされていることを理解いただき、当施設で受診することに安心を感じるお声をいただくことが多くなりました。これは、私ひとりの力ではなく、超音波検査を担当する技師たちがきちんと検査してもれなく観察してくれている信頼感があり、病院全体の取り組みとして全スタッフが行っているから、実現できていることだと思います。

左から 富士フイルムヘルスケア(株) 九澤、同左 波田、福本課長、中川主任、柏倉先生
左から 富士フイルムヘルスケア(株) 九澤、同左 波田、福本課長、中川主任、柏倉先生

済生会のソーシャルインクルージョン活動の取り組み
https://www.socialinclusion.saiseikai.or.jp/

販売名:超音波診断装置 ALOKA*3 ARIETTA 850
医療機器認証番号:228ABBZX00147000

AI技術のひとつである機械学習、Deep Learningを用いて開発・設計したものです。
実装後に自動的に装置の性能・精度は変化することはありません。
ALOKA ARIETTA 850 は ARIETTA 850 DeepInsight と呼称します。
*1
ARIETTA、*2 DeepInsightは富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。
*3
ALOKAはアロカ株式会社の登録商標です。